1942年創立の「東洋語学専門学校」を源流に持つ熊本学園大学では、外国語学部に日本語教員養成課程があり、2025年10月、文科省の「登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関」に認可・登録されました。グローバル人材を育成する実践的な異文化交流を強みとし、長期留学にとどまらず、短期の海外研修や学内での多彩なプログラムを通じて学生の学びの機会を広げています。また、地方における新たなキャリアの選択肢として日本語教員の可能性が高まりつつある今、その実情について、外国語学部の塩入すみ先生に伺いました。

塩入すみ先生 熊本学園大学 外国語学部 英米学科教授
文学博士(熊本大学、2013年)
【専門分野】
・日本語教育
【担当科目】
日本語教育、日本語教授法、日本語教育演習、日本語文章表現、日本語(上級ビジネス会話・上級アカデミックライティング)、日本文化演習
【著書】
・表象のベトナム、表象の日本(単著、2021年)
・ロケーションとしての留学―台湾人留学生の批判的エスノグラフィー(単著、2019年)
・『現代日本語文法11・複文』(共著2008年)
15年の歩みを経て熊本県下初の登録日本語教員養成機関に
―貴学は2025年10月に「登録実践研修機関・登録日本語教員養成機関」として文部科学省に認可・登録されています。九州で3番目、熊本県では初めての登録ということですが、コースとしては以前から提供されていたのでしょうか?
本学に日本語教員養成課程が開設されたのは2010年なので、15年ほどやっています。
日本語教員養成課程は本学のように外国語学部にあるケースと、文学部の日本語学科にあるケースとがあるんですが、外国語学部にある場合は日本語教員養成課程も外国語教育を前提とした科目と位置づけられることが多いですね。
文科省への登録には事務作業などの苦労を伴いましたが、無事に熊本県第一号となれて良かったです。
日本語教員は地方におけるキャリアの新たな選択肢
―熊本県では日本語教員の需要は増えているのでしょうか?
そうですね、今もっとも需要が増えているのは専門学校の教員だと思います。
というのも、昨今ネパールやカンボジアといった東南アジアから来日する方が増えていて、彼らは留学生として専門学校に入学するケースが多いので。
以前は大卒で日本語教員の資格を持っていても経験がないと日本語教員にはなれなかったんですが、2025年からは経験がなくても大卒で資格を持っていれば就職できるように変わりました。
―専門学校で日本語を教えるお仕事は今まさに売り手市場ということですね。貴学に入学される学生さんは、元々日本語教員を目指している方が多いのでしょうか?
最近は結構そういう学生が増えてきたと思います。日本語教師になりたくて英語や韓国語を学んでいる学生もいますし、オープンキャンパスで高校生と話すと、そういった進路希望を持っている子も多くなった気がします。
これは本学があるのが地方だからかもしれません。東京に比べると地方の仕事は限られているんですね。民間企業も多くはないし。そうなると、多くの学生が就職先として目指すのが地方公務員、その次に教職員や専門学校の教員、あとは看護師や保育士、社会福祉関係になってきます。
教員など資格のお仕事が人気なのは昔から変わりませんが、今はそこに加えて留学生や技能実習生等の増加に伴う日本語教員の需要も増えているので、地方におけるキャリアとして一つの選択肢になっているのかなと思います。
また、熊本県の南部から来ている学生は「絶対に都会に出たくない」という子も一定数います。就職しても自宅から通いたいと。
あと、最近の地方では面白い事象が起きています。地方の私立高校に留学生を配置する留学エージェントの会社が全国にあるんですが、そのおかげで最近フィンランドなど北欧からの留学生も多いんです。彼らは小さい頃から日本のアニメや漫画を見て好きになって、自分で日本語を勉強して来日しているので、結構日本語もできるんですね。
そういう子たちには、観光で行くような東京や大阪ではなく、「外国人は自分一人だけ」みたいな環境の方が意外といいらしく、秋田などの東北も人気のようです。そういった点でも、今は地方であっても国際交流できる機会はどんどん広がっていると思いますよ。

スポーツ留学生との交流
―なるほど、日本語教員は地方で生き残る道の一つになりつつあるのかもしれませんね。
そんな中で、貴学の日本語教員養成課程にはどういった特長がありますか?
本学は「熊本海外協会」をルーツに持ち、1942年に発足した「東洋語学専門学校」を前身として、世界で活躍できるグローバル人材を育成する大学として地域と共に歩んできました。グローバル人材育成を推進するため、特に目標としているのが、学内の国際化推進と、学生の海外留学促進です。
学内の国際化推進、つまり外国人留学生の受け入れ・支援体制の充実化という点では、一つは、今申し上げた北欧からの高校生、もう一つはスポーツ留学で来ている高校生への支援を授業やカリキュラムに取り入れています。
実は九州ってバスケットボールが盛んで、特に福岡は強豪なんですが、バスケはやっぱりチームに外国人がいないと全国大会までいけないので、毎年ナイジェリアなどアフリカから一定数の高校生たちが、スポーツ留学生として来日しています。
彼らは日本語はもちろんですが、食習慣の違いなども予備知識ゼロの状態で来るので、最初の半年くらいは食事もまともにできないような子も結構いるんです。そこで、まずは彼らに高校生活の息抜きということで、本学の学生たちと一緒にゲームをしたりおしゃべりしたりして過ごしてもらっています。
―バスケの強豪校にスポーツ留学で来日するというだけでもプレッシャーが大きいところに、日本の寮生活にいきなり馴染むというのは相当ハードルが高そうですし、ストレスも大きそうです。
そうなんです。アフリカは昔フランス領だった国が多いので、フランス語を母語とする子が多いのですが、週に2回くらいはテキストを使った学習をして、あと1日はもう遊ぶ日。イングリッシュラウンジで英語科の先生や学生たちも交えて、トランプしたりゲームしたりという日を設けています。
そうやって一緒に遊んでいるうちに、留学生の子たちも徐々に学生たちに心を開くようになって、先生たちには言えないようなこと――「こういうことが嫌なんだ」とか「こういうものが必要なんだよね」というのを、学生たちには言ってくれるようになったんですよね。つまり学生たちが留学生のメンタルケアの役割を果たしてくれている側面が出てきました。
とはいえ、そういった役割を果たせるかは、面倒見の良さとか学生の性格によるところが大きいですし、意図してそうしているというよりは、何年かこういった取り組みをしている中で偶発的にそのような状況が生まれたという感じですが。
――偶発的とはいえ、授業の中でそのような関係性が築かれるのは素晴らしいですね。留学生の皆さんにとって不安や不満を打ち明けられる同年代の子がいるというのはとても心強いと思います。

海外実習で「教える側の焦燥感」を覚え成長
――先ほどお話のあった重点目標の「学生の海外留学の促進」についても伺いたいのですが、日本語教員養成課程でも国外での実習はあるのでしょうか?
はい、あります。希望者は台湾か韓国、どちらかに行っています。あとフィリピンのセブ島で今新たな実習先を開拓しているところです。
コロナ禍で変わってしまったところもあるんですが、現地の大学の日本語学科とコラボレーションしたプログラムもあります。午前中は語学学校で授業を受けて、午後はその現地の大学の日本語学科でTA(ティーチングアシスタント)として実習させてもらうというもの。
海外実習に行くと、学生たちみんなすごく変わりますよ。単に用意された教室に行って授業を受けるだけではなくて、TAの実習では先生”もどき”ではありますが、ある程度責任を伴ったジョブトレーニング的な経験を通じて、学生たちはすごく成長します。
日本だと、教室の中に外国人が30人いても、一歩教室の外に出ればいつもの日本。だけど海外実習に行くと教室を出ても外国だから、学生たちの前提というか緊張感も全然違ってきます。韓国では、実習先によっては先生たちが「韓国語できて当然だよね」っていうスタンスのところもありますし、環境自体が持っているものが経験できるのは海外実習の醍醐味だと思います。
――短期の海外研修というと、受け身で授業を受けるのを想像していましたが、全然違って驚きました。それは貴重な経験を積めますね。
特に、TAつまり日本語の先生をすると、相手に言葉が通じないときにすごく焦燥感に駆られるんです。その焦燥感に耐えられなくて1回目の授業で泣き出す子も結構いるんですが、こういう経験は日本で国語の先生をやってもなかなか味わえません。
それに、韓国や台湾だと、向こうの学生たちも結構寄り添ってくれるというか、温かい気持ちでうちの学生たちにまなざしを向けてくれて。その温かさがまたTAの学生にとっては自分の不甲斐なさをより一層感じて泣けてくる…というのもあるんですが。
そういうことを目の当たりにすると、普段は教える立場の私も、学生たちって本当に伸びしろがあるなと感動します。たとえ一週間でも、海外実習から帰ってきた学生の顔つきがまるで変わっていて驚くこともしばしばです。
なので、個人的には、日本語教員養成課程の学生にもなるべく海外実習に行ってほしいと思っています。本学では長期留学だけが選択肢ではないと考えていますし、短期でもしっかり成長できるようなプログラムを用意していますので。
――東京など大都市の大学に通わなくても国際経験が積めるというのは、地方にとって明るい兆しだと思います。熊本県の日本語教員の実情について教えて下さり、ありがとうございました。


