日本の少子高齢化による労働力不足を解消すべく、地方大学と地域企業が連携し、留学生の定着を図る動きが活発化しています。そんな中、2021年から「外国人留学生地元就職促進プログラム」を運営するのが、佐賀大学国際交流推進センター(佐賀市本庄町)です。文部科学省の方針から始まったこの事業が、現場でどのようなシナジー効果を生んでいるのでしょうか。同センター准教授の古賀弘毅先生、学務部教務課副課長・留学生交流室長の伊東雅浩さんに、詳しいお話をうかがいました。
古賀弘毅 先生
佐賀大学 芸術学系 国際交流推進センター 准教授
留学生に日本語、言語学科目「文法発展:構文解析器上における文法の実装」、留学生の就活支援科目を教える。研究分野は日本語の格形式の統語・意味論、及び、佐賀西部有明方言の動詞屈折形の形態・音韻論。
国の方針と地域のニーズが合致したスタート
――貴学の外国人留学生地元就職促進事業は、どのような経緯でスタートしたのですか。
古賀先生:きっかけは、当時の国際交流推進センター長が文科省の会合に参加する中で、留学生に対する国の方針転換を肌で感じたことでした。日本の大学で学び、言語や文化への理解も深い留学生に卒業後も日本で活躍してもらうことで、国の課題である労働力不足を解消し国力を維持しようとする動きが強まっていたのです。これを受けて「うちもやりましょう」と手を挙げたのが始まりです。
――なるほど、国全体の課題がベースにあったわけですね。
古賀先生:はい。我々が始動した頃には、すでに静岡大学や山形大学、群馬大学など、先行して取り組んでいる大学がいくつかありました。企業の数が多い地域では、留学生を採用することで人手不足を補う動きが始まっていたんです。
――佐賀県の企業はどんな反応ですか?
古賀先生:地元の企業の方とお話しすると、「昔は地元の高校生がたくさん来てくれたのに、今では誰も来ない」という切実な声をよく耳にします。この人手不足を解消する貴重な戦力として、留学生に期待する声は確実に増えています。
伊東さん: 実際、佐賀県が主催する留学生向けのイベントには、県内企業が数十社集まります。都市部に比べると規模は小さいかもしれませんが、ニーズと実績は確実にあると感じます。
――留学生に対して、具体的にどのようなプログラムを提供しているのですか?
古賀先生:「キャリア研修」と「インターンシップ」の2つがメインです。
キャリア研修は隔週の授業を通年行い、2単位を与えます。前半は就職活動の基礎知識を学び、後半は企業からの課題解決型プロジェクトワークに取り組みます。
インターンシップは夏休みの間に1週間、実際に企業で就業体験をします。これは大学で学んでいる専門分野を活かすというよりは、「日本の企業で働くとはどういうことか」を知るための一般的な業務体験です。
――プログラムに参加する留学生には何か条件があるのですか?
古賀先生:はい。プログラムは文科省の認定を受けた事業で、国から奨学金も支給されるため、プログラム期間中に日本語能力試験N2以上の取得を目指すことを条件としています。これが、特に非漢字圏の学生には高いハードルになっています。
―やはりN2ですか。実際のところ、企業側も資格を重視するのでしょうか。
古賀先生: 以前はそうでしたが、最近は企業の方々も「N1やN2を持っていても、会話ができなければ意味がない」という考え方に変わってきています。「N3でもいいから、こちらの指示を正しく理解し、自分の意見をきちんと言える人材がほしい」と、コミュニケーション能力を重視する傾向が強くなっていますね。
――それに合わせて、大学側の日本語教育も変化しているのでしょうか。
古賀先生:その通りです。当センターでは、「就活のための日本語」に特化させています。
地方国立大としてリソースが限られる中、敬語の暗記など知識面のインプットは自習に任せ、授業では「議論できる力」(文章読解と読解したものについての意見を述べ合うなど)をつけることに時間を割いています。仕事を進めるための実践的な日本語力がないと、就職しても続きませんから。

国内就職者の約4割が佐賀で就職
――最近の留学生の傾向について教えてください。
古賀先生:以前は中国や台湾の出身者が大半でしたが、今はバングラデシュやインドネシアなど東南アジアからの学生が急増しています。特に大学院の英語コースに多く在籍していますね。英語で修士号や博士号を取得できるプログラムに入っています。
――英語コースの学生だと、日本語の習得、特にN2の取得は大変そうですね。
古賀先生: おっしゃる通り、漢字の壁がありますからね。それでも彼らは非常に優秀で、就職意欲も高いです。
――実際の就職実績はいかがですか?
伊東さん: 令和6年度の卒業生で見ると、国内就職者は20名、そのうち佐賀県内への就職は8名です。就職者全体の約4割が県内に残ってくれている計算になります。
――半分近くが地元に残るというのは素晴らしい数字ですね。
古賀先生: 当初は国内就職率が30%程度でしたが、現在は43%まで上がってきました。国からの奨学金支援なども活用しながら、文科省の方針である50%を目指しているところです。

留学生と企業、双方にとっての学びの機会に
――ここまで5年間の手応えとしてはいかがですか。
古賀先生: 数字が増えていることもそうですが、一番感じているのはプログラムに参加していない学生への波及効果です。このプログラムで熱心に活動する学生の姿を見て、周りの学生も「日本での就職もいいかもしれない」「こんなイベントがあるのか」と刺激を受けています。そうした副次的効果が思いのほか大きいなと。
伊東さん:中にはプログラムの一部だけ参加する学生もいますが、それでも接点を持つことで意識が変わっていっているみたいですね。
――企業側との関係性も深まっているようですね。
古賀先生:そうですね。双方に良い影響をもたらしていると思います。たとえば、先ほどお話ししたキャリア研修の“企業からの課題解決型プロジェクトワーク”で、地元の海苔加工業者さんが「アフリカ市場で海苔を広めるには?」という課題を出して、留学生が母国の視点で提案(日本食レストランに海苔の試食コーナーを設けるなど)をしたことがあったのですが、企業側にとっても非常に刺激になったようで、「とても参考になった」と喜んでいただいたことがありました。
伊東さん:本学を卒業する留学生は年間60人弱ですから、企業の「こういう人材がほしい」というご要望にマッチしないことも多々あるのですが、実際インターンなどで協力してくださっている企業さんは、その後自社での採用につながるかどうかに関係なく留学生を一緒に育てようとしてくださるので、本当にありがたいことです。
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
古賀先生:このプログラムが文科省の認定を受けて3年目、あと2年で認定期間は終了します。その時に自前で今のプログラムを継続していくのか、次はより高度な事業の公募に手を挙げるのか、まだどうなるか分かりませんが、形はどうあれ、留学生と地域企業をつなぐために本学でできる取り組みを着実に進めていきたいと思います。
――貴学の留学生の就職支援が、大学教育や地元企業に良い影響を与えていることがよく分かりました。本日はありがとうございました。

