十文字学園女子大学(埼玉県新座市)の日本語教員養成課程は、近年の日本語教員の需要の高まりに加え、周辺地域で外国にルーツのある子どもや、外国人労働者が増えているという社会的背景をふまえ、2020年に新設されました。地域のニーズをとらえながら日本語教育を実践的に学べる同課程について、担当教員の稲田先生と山下先生にお話を伺いました。
(記事公開日:2026年2月13日)
稲田朋晃 准教授(教育人文学部文芸文化学科・留学生別科・国際交流センター)
山下悠貴乃 講師(教育人文学部 文芸文化学科)
文学系の学科をベースとした日本語教員養成課程
十文字学園女子大学の日本語教員養成課程は、必修科目のみの一般コース(32単位)と、選択科目を加えてより深い学びが得られる上級コース(45単位)の2つがあります。
日本語教育に関する主要な領域をしっかりと押さえつつ、母体である文芸文化学科の特性を活かし、民俗学、国際文化学、文学史なども学べる点が特徴です。そのため、国際系学部が主体となる他大学の日本語教員養成課程とは異なり、言語だけでなく、その背景にある文化や価値観をふまえて指導できる日本語教員を目指すことができます。
現時点(2025年度)では文部科学省の登録日本語教員養成機関ではないものの、法務省の告示校要件を満たしているため、外国人留学生も受講しています。
また、授業では体験型の学びを重視し、学生さんが能動的に学べる工夫を随所に取り入れています。
「アクティブラーニングの必要性が謳われる中で、『日本人から見た日本語』を授業で聞いて学ぶだけでなく、『日本語について留学生に伝わるように説明するにはどうすればいいか』というテーマでグループワークで教材を作成するなど、実践に結びつくような課題を与えています」(山下先生)

実習を通して地域の社会課題を知る
十文字学園女子大学では地域連携を重視しており、地域の社会課題に向き合える人材の育成を教育方針の一つとしています。キャンパスのある埼玉県新座市周辺では、外国人居住者の増加に伴い、外国にルーツがある子どもが増えているそうです。そのため、日本語教員養成課程では小中学校や地域のボランティア教室などでも活躍できる人材の育成を目指しています。
例えば実習先の一つに、富士見市のコミュニティセンター(新座市に近接)で毎週水曜日に開かれている 「こども日本語学習クラブ」があります。こちらでは、5~10人程度の子どもたちがボランティアの方々の指導の下、国語の音読や計算ドリルなどを行っています。学生さんたちは、まずは見学から始め、徐々に指導にも関わっていくそうです。
「まずは地域で、『こんな日本語教育の場があるんだ』ということを学生に知ってもらいます。子どもによってニーズもバラバラですし、文化的な背景も異なります。学校の教室での指導とも全く違うやり方です。そういった場で、臨機応変な教え方を体験的に学んでもらいます。私たちはこの実習をとても重視していて、学生たちには必ず振り返りのレポートを書いてもらい、気付きが学びに繋がるようにしています」(稲田先生)
学生さんたちは、実習を通して学習者の行動や態度を観察する力を身に付けます。また、自分たちの生活する地域に、日本語教育を必要とする子どもたちが存在することを知る機会にもなっています。
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イベント企画から多文化共生を学ぶ
日本語教員養成課程では、こども日本語学習クラブでの実習に加え、外国にルーツのある子どもたちをサポートするイベントの企画と実施も行っています。志木国際交流会、NPO法人新座子育てネットワークといった地域の団体と連携しながら、夏休みの宿題ができない子どもや、学習習慣がついていない子どもたちに向けて、「大学生と一緒に楽しく勉強する」という学習支援を行っています。
イベントでは、夏祭りや初詣を擬似的に体験できる機会も提供しました。これには、日本に長く住んでいても外国人のコミュニティだけに所属していると、日本の文化に触れる機会が限られるという課題が背景にあります。夏祭りにも行ったことがない、お正月の文化も知らない子どもたちのために、学生さん自身が企画を考え、運営しました。
この他、外国人の保護者をサポートするイベントも実施しています。保護者にも、友人がいない、横の繋がりがないなどの問題を抱えて孤立するケースがあるそうです。こうした保護者に対しても、日本の医療の受け方、災害への備え、あるいは子どもの進学相談などの講座を開いています。
学生さんたちは、イベントへの参画を通じて、「外国にルーツのある子どもたちをサポートするとはどういうことなのか」と考える機会を得ています。学生さんたちの就職先は学校教員の他、一般就職が多いそうですが、どのような職場においても学んだことを活かす機会はありそうです。例えば、ベトナムからの技能実習生が多く働く食品会社に採用されたある学生さんは、日本語教員養成課程での経験から、技能実習生と日本人幹部の橋渡し役を期待され内定に至ったそうです。

教壇に立つ経験は、自己表現につながる
ところで、日本語教員養成課程を選択する学生さんの中には、シャイな人も少なからずいるのだそうです。というのも、この課程はコロナ禍の2020年から始まったため、高校生時代にコミュニケーションの機会に恵まれなかった学生さんが多いという背景があります。
「コミュニケーションをちゃんと取れるようになりたいとか、自分を変えたいという意志を持つ学生も多いです。教育実習などを通して、自分のことを伝えられるようになった、勇気を持って人に話しかけられるようになった、ということもよく聞きます。そういった想いで受講してくれるのは、すごく嬉しいですね」(稲田先生)
そういった学生さんたちにとって、日本語教員養成課程は自己実現にも繋がってきます。
「学生たちは、最初、すごく緊張していますが、実習は1年で2サイクル行うので、1回目にうまくいかなくても、2回目で挽回できます。1回目の自分を振り返って、次により良い授業を行う準備ができるので、その辺りが成長に繋がるのかなと感じます」(稲田先生)
コミュニケーションをとるのが難しい時代に多感な時期を過ごしてきた学生さんたちにとって、日本語教育を学ぶことは、多文化共生だけでなく、お互いを尊重しながら交流を深めるというコミュニケーションの根本を学ぶ機会にもなります。この課程を選択した学生さんたちの今後の活躍が大いに期待されます。
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