静岡県三島市は富士山の麓、伊豆半島の付け根に位置し、清らかな水と穏やかな気候に恵まれています。更に東海道新幹線の駅があり、交通の便も優れた自治体です。
静岡県内では外国人比率が低い方に入りますが、近年はアジア圏からの転入が増加傾向のため、自治体として多文化共生への取り組みに力を入れています。元来より充実していた市民ボランティアや地元の大学とも連携して、先進的な活動が続けられています。
今回は三島市環境市民部 地域協働・安全課 国際交流室の齊藤さんと、同課で長年中国語通訳を務めており、市内の国際事情に精通している李寧(り・ねい)さんに、三島市の多文化共生についてお話を伺いました。

変わる外国人住民の構成。アジアからの転入増が転機に
――まずは三島市の現状について伺いたいのですが、外国人住民の比率はどのくらいなのでしょうか。静岡県というと、浜松市などのように「工場の企業城下町で外国人が多い」というイメージを持つ方も多いと思います。
齊藤さん:三島市の外国人住民数の比率は県内でも低い方に入ります。総人口約10万人に対して1.5%から1.7%程度を行ったり来たりしている状況です。
――外国人の比率が低いにもかかわらず、多文化共生に力を入れているのはなぜですか?
李寧さん:多文化共生への取り組みは、昔から継続して行ってきたものです。ただ、ここ数年で更に強化したという感じです。というのも、外国人住民数の比率自体は大きく変わっていないけれど、構成が変わったんです。
以前は、南米か中国ルーツの方が過半数でした。日系2世、3世の方も多くて、外見からは日本人とあまり見分けがつかなかったんです。目立ったトラブルもなくて、すごく平和な状態が続いていました。でも、ここ数年は全国と同じ傾向で、南米・中国の方が減って、代わりに技能実習と特定技能の在留資格を持つベトナム、ネパール、インドネシア、スリランカなどアジアの方が増えています。
アジアの方は南米・中国の方と比べて外見的にも目立つので、スーパーやいろんなお店で市民の目に留まる機会が多くなりました。日本人の市民から「最近、外国人が増えてきたけど、みんなどこに住んでいて、何をしに来ているの?」と聞かれることが多くなりました。

問題が起きる前にルールを知る機会を作る
――いわば市内にいる外国人の見た目が変わったことで、日本人市民の方々が戸惑い始めたわけですね。それが、行政として多文化共生を強化しなければならないと感じるきっかけになったと。
李寧さん:そうですね。習慣・文化の違いも現れてきました。たとえば、以前から住んでいた南米の方の主な移動手段は車だったけれど、新しく来たアジアの方の移動手段は主に自転車。そして日本と母国とでは交通ルールが違うので、「逆走してる」とか「一時停止しなかった」とか、自転車の乗り方に関する声が市民から上がるようになりました。だから、そういった生活ルールの周知を強化しなきゃいけないと。
齊藤さん:三島市は県内の他の市町に比べて、まだ外国人住民が少ない状況です。だからこそ、今後その数が増えトラブルが起きてから慌てて対応するのではなくて、今のうちから共生の下地を作っておこうと考えました。そこで、三島警察署と協力して外国人住民を対象に自転車の交通ルール講座を開いて、その後もゴミの出し方やバスの乗り方といった生活直結型の講座を企画するようになりました。
――先手を打ったということですね。
齊藤さん:他にも、翌年度に小学校に入学する外国籍のお子さんのいる家庭に向けて、各学校の入学説明会の前に「日本の学校とはこういうものですよ」という事前説明会も実施しています。
令和7年度は防災をメインテーマにして、地域の方も一緒に参加してもらい、お互いの文化を知り、繋がりを作るための講座にも力を入れました。
李寧さん:外国の方も日本のルールを守りたくないわけではなくて、日本のルールを知らないだけなんです。行政の役目としては、彼らが日本のルールや文化を学ぶ機会を作ること。それと同時に、日本人の皆さんにも「彼らはまだルールを知らないだけだから、大目に見て待ってあげてね」と理解していただく機会も作っています。
――お互いを知らないから不安が生じるだけであって、知る機会があれば変わっていくということですね。昨今は根拠のない排外主義的な声が広がることもありますが、そういった偏見を防ぐ上でも三島市のような取り組みが意味を持ってきそうです。
齊藤さん:本当にそう思います。事実とは異なる、数字的な根拠もない噂がどんどん広まってしまうのは恐いです。「外国人が増えたら事件が多くなる」と言う人もいますが、実際に三島市のデータで調べると、外国人の数は増えているのに、外国人による犯罪件数は減っているんですよ。ですから、事実かどうかも分からない情報に惑わされないように、といった発信も大切だと思います。
4つの外国人支援団体
――三島市は市民活動が活発なイメージがありますが、やはり多文化共生とも関係しているのでしょうか。
齊藤さん:そうなんです。三島市には、昔からほぼボランティアで運営してくださっている支援団体が非常に多くて、他の市町に比べてかなり恵まれていると思います。年に2回市内の支援団体に集まっていただき、「多文化共生推進連絡会」を開催して、各団体の状況や困りごとを共有しながら、市としてどんなサポートができるかを一緒に考えています。
――具体的にはどのような団体が活動されているんですか?
李寧さん:外国人向けの支援を行っている団体が主に4つあります。“日本語サークル”、“のびっこクラブみしま”、“あいうえおの会”、“カサ・デ・アミーゴス”です。
それぞれに明確な特徴があります。日本語サークルさんはクラス形式ではなく1対1で日本語の文法から丁寧に継続して教えてくれる団体です。のびっこクラブみしまさんは、外国にルーツを持つ子どもたちをメインに支援しています。日本の学校の授業についていけるように、毎週土曜日の午前中に学習支援を行っています。
――子どもから大人までカバーされているんですね。
李寧さん:そうなんです。あいうえおの会さんは、コロナ禍で東南アジアからの技能実習生が増えた時期にできた団体です。仕事の現場で使う日本語を想定して、実践的な日本語を教えてくれるのが特徴です。カサ・デ・アミーゴスさんは、生活が苦しい外国人ファミリーへの物資支援をメインにしつつ、その中で日本語を勉強したい子どもや大人がいれば支援してくれています。
4つの団体それぞれに特徴が違うので、外国人住民にとっては自分の状況に合わせて支援団体を選べる、恵まれた環境なんです。
――それはとても心強いですね。行政側からはどのようなサポートをしていますか?
齊藤さん:多文化共生推進連絡会の中で、ボランティアの方々から「自己流で教えているので、もっとちゃんと教え方を学びたい」とか「支援者をもっと増やしたい」といった声が上がりました。そこで市が主催して「日本語学習支援の初級講座」を開催しました。令和6年度は10回講座で19名、7年度も5回講座に縮小したものの17名もの方にご参加いただき、また、静岡県が推奨する「対話交流型日本語教室」も開始しました。これは外国人と日本人が1対1で1つのテーマについて話し合いながら学ぶスタイルなんですが、市民の方々が支援者としてたくさん集まってくださって、意識の高さがありがたいです。

大学とも連携、医療現場も気遣う
李寧さん:令和6年度からは、地元にある日本大学国際関係学部の学生さんたちが、外国人への生活情報の発信や、日本語支援に協力してくれています。
――地元の大学生まで関わってくれるのは素晴らしいですね。若い力が入ることで活気も出そうです。
李寧さん:本当に助かっています。ボランティアの人手不足の解消になります。それに、日本語教育を専攻している学生さんもいるので、彼らにとっても日本語指導の実践の場になるということで、一石二鳥の良い関係です。
齊藤さん:順天堂大学保健看護学部の「やさしい日本語部」の学生さんたちも、三島市国際交流協会の会員になって一緒に活動してくれています。大学と市が連携して、外国人が病院で症状を伝えやすいように、オノマトペ(ズキズキ、チクチクなど)を使った多言語対応の指差しシートも作成しました。市内の病院や、外国人観光客が急病になった時のためにホテルにも配布しています。
――医療や観光の現場にまで細やかに気を配っていらっしゃるのですね。至れり尽くせりです。
齊藤さん:ただ、医療現場ではまだ課題も残っています。一昨年、医療従事者向けに「やさしい日本語講座」を企画し、順天堂大学から専門の先生を講師としてお招きしたのですが、参加者が非常に少なかったんです。医師会を通して、先生だけでなく看護師さんや受付の方々や薬剤師さんなどに広く呼びかけたんですが…。
李寧さん:医療現場の皆さんは人手も足りていない中で、本当に日々忙しく働いているので、さらに外国人の患者さん向けに「やさしい日本語」で丁寧に対応するとなると、現実的に余裕がないんだと思います。あと、「外国人の患者は日本語が話せる友達や子どもを通訳として連れてくるから問題ない」と思われている部分もあるかもしれません。でも、もしも通訳できる人がいなかったらどうなるのか。外国の方自身にも日本語を学ぶ努力をしてほしいし、病院側も日本語が喋れない外国人を温かく受け入れてほしいです。私たちも、この局面の打開策を考えます。
「三島は最高、東京には行かない」。外国人住民も魅了するまち
――今年度(令和8年度)以降、新たに取り組みたいことや展望などはありますか。
齊藤さん:昨年度初めて実施した「対話交流型の日本語教室」が全8回だったんですが、これを12回に拡大して実施する予定です。教室の対話のトピックの中に「ゴミの出し方」などの生活ルールを自然な形で組み込みながら、内容をブラッシュアップしていきたいと考えています。
私たちの課は多文化共生だけでなく、姉妹都市・友好都市との国際交流や、三島市国際交流協会の事務局なども兼務しているんですが、今年度はアメリカ合衆国・パサディナ市と中華人民共和国・麗水市への公式訪問やパサディナ市への研修生の派遣、ニュージーランド・ニュープリマスや麗水市からの青少年の受入れに、麗水市からの教師受入れも重なっていて、目が回る忙しさになりそうです。昨年度も職員は土日出勤が多くなり、倒れそうになりながら仕事をしていたので(笑)。ですが、関係団体と協力しながらできる限りのことを進めていきます。
――業務が多岐にわたって大変そうですが、お話を伺ってきた中で、三島市は非常に魅力的な街だと感じます。移住先として人気なのもよくわかります。
齊藤さん:そうですね、三島市は若い方にもUターン移住の方にもすごく人気があるんです。東海道新幹線のひかりに乗れば品川まで35分ですし、車で30分走れば箱根にも行けます。交通の便が良くて自然も豊かなんです。また、そういった点に惹かれて移住した方が、市民活動を始めたりボランティアに加わったりしているようです。
李寧さん:市民の皆さんの人柄が温かくて、外部から来る人を気持ちよく受け入れてくれるんです。
私がこれまで関わってきた外国の方たちも、最初は「ミシマってどこ?三島由紀夫と関係あるの?」という反応なんですけど、実際に三島に住んでみると「いやあ三島は最高だね。もう東京には行かないよ」と口を揃えて言うんですよ。何十年も住み続けていて、「この20年くらい東京に行っていないから、今の都会の流行りは知らない」と笑い合うほど、皆さん三島暮らしに大満足されていますし、自慢しています。三島での生活に不満を持っている外国人はほとんどいないと思いますよ。
――それは素敵なエピソードですね!行政の皆さんの先を見据えた細やかなサポートと、市民の皆さんの温かい土壌が見事に噛み合っているのだと実感しました。前向きで希望のあるお話をありがとうございます。
李寧さん:外国人も移住者も住みやすい三島市へ、これからも色々な方に来ていただきたいです。


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