富山県射水市で国際交流コーディネーター(地域おこし協力隊採用)として活躍されている台湾出身の王 義君(ワン イージュン)さんにお話を伺いました。 見知らぬ雪国への移住、異文化交流イベントの企画、さらには市長と組んでのトップセールスから多文化共生の推進まで。2025年4月の着任からわずか1年で40以上ものプロジェクトを仕掛けた王さんの、楽しさと熱い思いが伝わるインタビューをお届けします。

人の縁で雪国・射水へ

――王さんは台湾のご出身ですよね。台湾から射水市の地域おこし協力隊になるまでに、どのような経緯があったのでしょうか? 色々なお仕事を経験されたのですか?
王さん:私は台湾の台中出身です。台中は台湾のほぼ中央に位置します。
私はこの仕事に就く前、東京の早稲田文理専門学校に通っていました。国際観光・通訳ガイド学科です。ちょうど卒業前に就職活動をしていた最中、学校の副校長先生からこのお仕事を紹介していただきました。副校長先生の知り合いの社長さん、さらにその方から北陸の中部観光という会社の方へと繋がり、最終的に私にご紹介いただく形となりました。
そうして3人もの方を経由して、射水市と私とのご縁が生まれました。
射水市は台湾の台北市士林(シーリン)区と友好提携を結んでいます。地元の台中と直接の関係はなかったですが、台湾で積んだ経験・知識を生かすことができました。
――そうだったんですね。専門学校では観光関連を学ばれていたとのことですが、やはり日本の観光業も視野に入れて就職活動をされていたのですか?
王さん:そうですね。今までホテル業界で10年のキャリアを築き上げましたので、この経験も生かすことを踏まえて専門学校でも観光や通訳を学んでいました。これからは観光だけでなく日本と台湾の架け橋となる仕事を探していきたいなと考えていたところ、射水市の協力隊のお話をいただいたんです。

――その以前から、射水市のことはご存知でしたか?
王さん:全然知らなかったです(笑)。富山県の有名な船「海王丸」くらいは聞いたことがあった気もしますが、海王丸パークがある射水市のことは一切知りませんでした。
――台湾はとても暖かいイメージがありますが、射水市は雪も降りますし、かなり寒いのではないでしょうか。
王さん:そうなんです。今年(2026年)の1月末に、射水市長と一緒に台湾へ観光トップセールスに同行する時のことなんですが、富山空港へ向かう前に30分くらい雪かきをしてから家を出たんですよ。でも、台湾の高雄に着いたら、完全に夏でした。
――雪かきからの夏!それはすごい温度差ですね。
王さん:冬から夏へと一気に季節が転換したので、同行した皆さんも結構びっくりしていましたね。 以前、和歌山県の高野山に住んだことがありましたが、雪の量は射水市の方がはるかに多いですね。でも、生まれて初めて本格的な雪国で過ごして、とても新鮮な体験でした。

射水市民に台湾を伝える
――昨年(2025年)の4月に協力隊になられて、射水市の春から冬まで、四季をすべて体験されたということになりますが、普段はどのような活動をメインにされているのでしょうか?
王さん:射水市は台北との友好提携を結んでいるので、私の任務はやはり観光や教育など様々な分野での交流がメインになります。日本側と台湾側が国際交流を図るときにマッチングして、交流事業を推進するコーディネート業務を行います。それから、市民の国際理解を促進することを目的として、台湾イベントの企画もしています。あとは、射水市の認知度向上のために観光プロモーションし、行事の企画やSNSを通じた情報発信にも取り組んでいます。
台湾イベントの例は、今年の3月には「サルベージパーティー」という企画がありました。家庭で余っている食材や食べ残しなどをアレンジして、台湾料理に変身させるという趣旨です。また、日台交流会も行いました。去年のクリスマス前には、台湾料理教室も開催しました。「日本のスーパーで買える食材を使って台湾料理を作る」というコンセプトで、私から市民の皆さんに教えました。
――射水市の方々の反応はいかがでしたか?
王さん:想像以上に多くの反響をいただきました。募集を開始したら、一晩で申し込みが締め切りになるほど大盛況でした。とてもありがたいです。他にも、年に1回「台湾フェア」を開催しています。

――台湾というと、日本人はどうしても「台北」ばかりを意識してしまうと思うのですが、王さんはご出身の台中も含めPRしたいですよね。
王さん:そうですね。やはり台北が一番知られていて、特に『千と千尋の神隠し』のモデルになったとも言われる「九份(きゅうふん)」などが有名ですね。私としては、台北を中心としつつも、台湾全体の魅力を皆さんに紹介していきたいなという思いがあります。
――台湾って地域ごとに料理の味が違ったりするらしいですしね。
王さん:そうなんです!例えば、日本でもよく知られている「ルーローハン(魯肉飯)」は、地域によって味付けが全然違うんですよ。北部の方は少し塩っぱめの味付けで、南部の方は甘じょっぱい味付けになります。具材も変わります。お肉をトロトロに煮込む作り方もあれば、ブロック肉をそのまま使う作り方もあります。豚の皮と一緒に煮込む地域もあれば、皮なしで作る地域もあって、本当にバリエーション豊かです。
――ちなみに、台中ではどのようなルーローハンを食べるのですか?
王さん:台中はちょうど真ん中にあるので、北部と南部がミックスされたような感じです。色々な作り方、食べ方がありますね。
――日本で言うと「名古屋」みたいな、北と南の文化が混ざり合うような場所なんですね。
王さん:はい、まさにそんな感じです。実は名古屋市と台中市も友好都市を結んでいて、地理的な位置づけもちょっと似ていますね。
――大盛況だった料理教室では、そんな台中の料理も教えられたのですか?
王さん:台中の料理というよりは、冬の季節だったので「旬」に合わせた料理を教えました。体をポカポカに温めることができるような、薬膳料理や漢方を取り入れた料理ですね。台湾では冬になると鍋を食べるのがとても人気なんです。
――台湾や中国の料理というと、体に良い「医食同源」のイメージがすごく強いです。あまり冷たいものは食べない印象がありますね。
王さん:そうですね。日本だと、冬にレストランに入っても冷たい「お冷」が出てきたりしますよね。台湾人は逆に、冬は温かいお茶が欲しいなと思ってしまいます。体を冷やさないように、気を使っている人が結構多いですね。
――射水市の寒い冬にレストランでお冷が出てきたら、ちょっと驚きますよね。王さんは射水市で外食も楽しまれているんですか?
王さん:それが、射水市には台湾料理店がないので、私はあまり外食せず、ほぼ毎日自炊しているんです。美味しい台湾料理が食べたくなったら、もう自分で作るしかないんですよ(笑)。

台湾にも射水を伝える

――そうなんですね。料理を教える一方で、観光プロモーションのために台湾と頻繁に行き来もされているんですよね?
王さん:昨年度は2回台湾へ訪問しました。1回目は、射水市の中学生の代表16名を集めて、友好都市への訪問プログラムを引率しました。そして2回目は、射水市長に随行し、台湾の旅行会社へトップセールスに行きました。
――富山県には、台湾からの観光客は結構来ているのでしょうか?
王さん:外国人観光客の割合から見ると、台湾人観光客が一番多かったです。特にバスで色々な場所を巡る団体客が多いですね。やはり富山や北陸地方は車がないと少し不便を感じる場所なので。 観光ルートとして人気なのは立山黒部アルペンルートですね。あとは隣県になりますが、白川郷や高山、金沢のあたりが定番のルートで人気です。富山県内で台湾人に一番知られている観光スポットは雨晴海岸ですね。
射水市はちょうどその隣にあるんですが、まだ立ち寄り場所として定着していなくて、素通りされてしまうことも多いんです。だからこそ、みんなに来てもらいたくて、私もプロモーションを頑張っている最中です。
――確かに、日本国内でも射水市の観光地としての知名度は、まだそこまで高くないかもしれません。
王さん:あまり知られていないから立ち寄らないだけで、実際に来てみると新湊の内川エリアや海王丸パークなど、すごく綺麗な場所がたくさんあるんです。内川は「日本のベニス」とも呼ばれていて、とてもロマンチックな雰囲気があるんです。川沿いに古い木造の古民家が並んでいて、少しノスタルジックな港町の情緒が感じられ、その後ろには壮大な立山連峰が見える。あの景色は本当に素晴らしいですね。
それに、富山湾の新鮮な魚介類が獲れるので、お寿司もすごく美味しいですよ。種類が豊富で漁獲量も安定しており、比較的手ごろな価格で提供されています。先週東京に行った時に魚料理の値段を見ましたが、やはり富山の方が鮮度も良くて、圧倒的にコストパフォーマンスが高いなと感じました。
――台湾の方々は、お寿司やお刺身などの生魚は抵抗なく食べられるのですか?
王さん:はい、台湾も海に囲まれた島国なので、魚を食べる文化は普通にあります。お寿司も大好きですが、台湾で食べると値段がやや高いんですよ。だから富山に来て魚の値段や質を見ると、みんな本当にびっくりしますね。富山湾は地形が深海になっているので、船を出してカニや深海魚を獲るのに時間がかからず、鮮度を保ったまま港に運べるんです。だからコストも抑えられて、安く提供できるそうです。

――ちなみに王さんが富山に来て、一番気に入った食べ物は何ですか?
王さん:やはりカニですかね。ここの紅ズワイガニは本当に大きくて美味しいです。台湾にはこんなに大きくて新鮮なカニはないんですよ。こんなサイズのカニは輸入の冷凍モノしか食べられないので、富山に来て初めて紅ズワイガニを食べて感動しました。 しかも射水市では、年に一度、学校の給食で子どもたちに紅ズワイガニが1人1杯提供されるんです。このことは台湾のニュースでも取り上げられて話題になりました。
――給食でカニが1杯丸ごと! それは羨ましいですね。
王さん:そうですよね。市長と台湾へトップセールスに随行する際も、この射水市で獲れた紅ズワイガニを持参して行ったんです。現地の旅行会社の方々に振る舞いました。美味しく召し上がってもらいましたが、「射水市に来て、獲れたての新鮮なカニを食べたらもっと最高ですよ!」としっかりアピールしてきました。
――ぜひ現地へ旅行に来てくださいね、と。 そのセールスに行ってから、実際に旅行に来てくれた方はいますか?
王さん:はい、すでに効果が出ています。いくつもの団体旅行が予定に組み込まれました。特に今年の7月に開催される花火大会では、有料観覧席のチケットの8〜9割を台湾の団体客の方々が予約してくださったんです。トップセールスのその場で「ホテルの予約も取りたい」と言っていただき、すぐに対応して宿泊先の確保をできました。
――そこまで手厚くサポートされているんですね、素晴らしいです。 今は中国からの観光客が減っているタイミングでもあるので、台湾の方々にたくさん来ていただけるのは観光地としては助かりますよね。
王さん:台湾の皆さんは、「日本がインバウンドで困っているなら、私たちが応援に行こうぜ」という温かい気持ちを持ってくださる方が多いんです。
――王さんは、旅行の添乗員の資格もお持ちなんですか?
王さん:はい、「旅程管理主任者」の研修を修了しましたので、旅行会社に所属すれば資格を申請できますが、今の仕事でも観光案内をしたり、旅行の行程を組んだりしています。自分自身も旅行が大好きで、色々なところに行きました。
――それは心強いですね。 射水市は平成の大合併をして市域がかなり広いと思いますが、その分観光資源も豊富ですよね。
王さん:その通りです。海側には先ほど紹介した新湊や内川があり、山側には太閤山(たいこうやま)というエリアがあります。太閤山には太閤山ランドという大きな公園があって、夏にはアジサイが綺麗に咲き、ジップラインも体験できます。新湊の方は花火もあって、秋に新湊曳山まつりというユネスコ無形文化遺産に登録されているお祭りもあります。
――王さんが射水市で暮らしてみて「この季節のここが好き!」というポイントはありますか?
王さん:冬の立山連峰の景色は確かに美しいですが…。やはり寒すぎるので、秋のほうが一番好きですね。秋は気温もちょうど良くて過ごしやすいですし、曳山まつりもあります。それに、紅ズワイガニの漁が解禁になるのも秋ですし、寒ブリも食べられるようになりますから。美味しいものが一気に増える季節です。 自分でも、この素晴らしい射水市の観光資源をもっとプロモーションしようと思って、日本に住んでいる台湾人のインフルエンサーを招致する企画も立てて去年に実行しましたし、今年も秋の曳山まつりに合わせて再度企画する予定です。

外国人住民と地域を繋ぐこともしたい
――どんどん新しいプロモーションを仕掛けているんですね。協力隊の1年目が終わり、2年以降に新しくやりたいことなどはありますか?
王さん:観光プロモーションも引き続き頑張りますが、市民の方々との交流をもっと増やしていきたいという気持ちがあります。例えば「おしゃべり会」のような、気軽な交流会をもっと開催したいです。
――北陸の方って、少し照れ屋で控えめな方が多い印象があります。
王さん:そうなんですよ。だからこそ、こちらから交流の場を設けて、参加していただきたいんです。射水市は富山県内でも外国人住民の割合が高く、約8万8000人の人口に対して、外国人が約4000人も住んでいるんです。割合で言うと4〜5パーセントと、かなり高いですよね。フィリピン、ベトナム、パキスタン出身の方が多いです。
――アジア圏の方が多いですね。
王さん:はい。ただ、やはり彼らは自分たちの国のコミュニティの中だけで集まって、仲間同士でしか話さない傾向があります。一方で、地元の高齢者の方々は、隣にどこの国かもわからない外国人が住んでいて、週末にパーティーなどをしていると、どうしても不安や危機感を抱いてしまうんです。
――お互いの文化や風習を知らないから、慣れていないんでしょうね。
王さん:そうです。日本人が彼らの風習をわからないから不安になるのと同じで、外国人側も日本社会に馴染む難しさを感じています。でも私は「郷に入っては郷に従え」という言葉があるように、日本に来たからには、日本人と友達になって文化に触れ、お互いに理解し合う努力をした方が絶対に良いと思っているんです。
――素敵な精神ですね。その心を、射水市民の方にも、射水に住む外国人の方にも広げていきたいと。
王さん:はい。だから「おしゃべり会」を通じて、その不安の壁を打ち破るきっかけを作りたいんです。少しでも話してみれば、「なんだ、全然悪い人じゃないんだな」とお互いに分かり合うようになりたいです。言葉の壁があるのは確かですが、そこをなんとかサポートしていきたいです。
――言葉の壁の問題は、全国どこの自治体でも課題になっていますよね。国も色々と対策を打ってはいますが、現場のサポートは大変だと思います。
王さん:ボランティアの方々の力だけに頼るのには限界がありますから、市としても私が間に入って、もう一歩踏み込んだ企画をしていく必要があると感じています。ただ、私は本来「台湾との観光プロモーション」をメインで期待されて雇われているので、多文化共生の部分まで手を出すのは、時間的にも体力的にもかなり厳しい部分があるのも事実です。
――そうですよね。王さんの取り組みで台湾からの観光客が増えていけば、射水市の方々も自然と外国の人と接することに慣れていくという相乗効果もあるかもしれません。
王さん:そう信じています。台湾人は親日の方が多いですし、簡単な日本語ならわかる方も多いので、コミュニケーションの壁はそこまで高くありません。市民に「外国人との交流は楽しい」という好印象を残していきたいですね。

1年間で40以上のプロジェクト。全力疾走の先に見据える未来
――王さんは本当に体がいくつあっても足りないですね。協力隊の任期は3年間ですが、あっという間に過ぎてしまいそうです。
王さん:昨年度だけでも40以上のプロジェクトや行事に関わりましたから、本当にあっという間でした。前任者は年間20個ほどの事業数だったので、仕事量が倍以上に増えました。初年度の活動報告書を書きながら、「こんなにいっぱいやったんだな」と自分でも驚いています。少し無理をしたところもあるので体には気をつけます(笑)。
とはいえ、自分のキャリアのことも少しずつ考えないといけない時期に入ります。色々と勉強して、今後の可能性を探っていきたいと思います。
――台湾からの観光客が大挙して押し寄せてきたら、射水市としても「王さんにはずっと居てほしい!」と思うのではないでしょうか。とにかくお忙しい毎日だと思いますが、お体に気をつけて、これからも射水市に素晴らしい貢献をなさってください。
王さん:ありがとうございます!これからも頑張ります。


