日本国内で在留外国人が増加する中、日本語教育の重要性はかつてないほど高まっています。
高知県立大学文化学部では、2007年から「日本語教員養成プログラム」を開始していますが、現在本プログラムを牽引する向井真樹子先生は、13歳から17年間をイギリスで過ごし、北欧諸語の研究にも携わってきた経歴をお持ちです。
今回のインタビューでは、向井先生から見た日本の現状や、同大学の実践的な教育実習と模擬授業、学生さんたちの成長などについて伺いました。

高知県立大学 文化学部文化学科 准教授
向井真樹子先生
言語学博士(英国ニューカッスル大学大学院、2006年)
【研究テーマ】
・英語、北欧諸言語、日本語、等の複合語の比較・対照
・日本語教育(単語の習得)
・英語教育
【研究概要】
生成文法の枠組み内で様々な言語の複合語を分析し、普遍的共通点を探っている。日本語教育・英語教育では、学習者の習得状況を分析し、生成文法の枠組み内でどの程度説明できるかを探っている。
デンマークに遅れること25年以上
――先生ご自身は13才からイギリスで17年間暮らし、英語・日本語・北欧諸語の研究を続けておられます。そういったご経験のある先生からご覧になって、日本語教員の養成に力を入れ始めた日本の現状ついては、どのようにお感じでしょうか。
私は通訳者になりたいと思ってイギリスの大学でデンマーク語を専攻しました。イギリスの大学で外国語を専攻する者は、必ず1年間の語学留学をしなくてはいけなくて、私も2年生の時にデンマークに行きました。
デンマークでは語学学校に通ったのですが、そこで非常に驚いたのが、デンマークには様々な国から難民や移民が来ていたことです。当時の私から見て、デンマークは難民と移民も住みやすそうな国でした。ただ、そういった人々がデンマークに住むためには、必ずデンマーク語を勉強しなければならないという決まりが既にありました。
これは25年ほど前の話です。本音を言うと、日本もようやくそこに力を入れるようになったんだなと思います。
以前、本学の学生が卒業論文で日本国内の日本語教育の現状について書いていたんですが、日本との比較対象としてドイツを挙げていました。ドイツにもやはり移民がたくさんいて、デンマークのように「まずはドイツ語を勉強しなければならない」と法律で決まっていると。遅まきながら、そういったことが日本にも徐々に浸透してきているのでしょう。
文化学部の日本語教員養成プログラム
――貴学の日本語教員養成プログラムの特徴を教えていただけますか。
本学の日本語教員養成プログラムは、文化学部の授業を履修して、最後に教育実習を行う流れになっています。文化学部のカリキュラムには、人文系だけでなく社会科学系の授業もありますので、様々な専門分野の学生たちが集って日本語教員の学習をできるというのが特徴です。
教育実習先は、明徳義塾高校と専門学校の龍馬学園、高知県国際交流協会の日本語オンラインクラスの3カ所です。明徳義塾と龍馬学園には留学生がたくさんいるので、そこで留学生専門の先生から一週間指導をしていただきます。
――日本語教員養成プログラムを選択する学生さんにはどのような傾向がありますか。
「資格が取れるから」「良い経験になるから」という理由で選択する学生もいますし、留学生や外国人との交流に興味のある学生、就職して企業の中で外国人従業員と関わりたいという学生もいます。もちろん、将来は日本語教員になりたいという者もいます。
――ということは、高知県でも在留外国人の数は増えているのでしょうか?
高知県は他県と比べると少ないですが(2025年6月末で6996人)、傾向としてはやはり増えてきています。高知県国際交流協会さんが2019年に外国人生活相談センターを開設されて、多言語対応を始めるなど、だんだんと体制が整えられてきています。
高知県育ちの学生たちの中には、教育実習で初めて外国人と接する者もいます。そういった意味では、本学の日本語教員養成プログラムは学生たちにとって有意義であり、チャンスになっていると思います。
劇的な成長を見せる学生たち
――先生からご覧になって、学生さんたちはそのチャンスを活かせていますか?
そうですね。私がこのプログラムで重視しているのは、日本語を教える技術の習得だけでなく、彼ら自身が元々持っている長所を伸ばすことなんです。教育実習が3回生の時にありますが、実習を始めた直後と終わった後では、やはり変わっています。子供から成長して大人になったというか、卵から孵化したというか。
それが顕著に見えたのが、昨年度から新たに始めた教育実習の模擬授業です。街に外国人観光客が増大していることに着目して、「誰でもいいから外国人を見つけて、話題も何でもいいからやさしい日本語でできるだけ長い時間話してみなさい」と学生たちを30~40分野放しにしたんです。あえて言葉が通じない状況に放り込まれたら、どのようにコミュニケーションをとるのかと。
最初の頃は、何をどう話していいか全くわからないんです。だけど、相手も大人なので、徐々に話をしてくれるようになって、英語ができる人は英語で、英語が全くできない人は簡単な日本語でやりとりをします。それを実習前に2、3回行います。
実習から帰って来たら、再度行います。すると、彼らは「スムーズに話ができるようになった」と言って、ものすごく達成感を感じられたようです。実習前は、言葉ができないだけでなく、会話の内容が提示できなかったんです。例えば、「どういう食べ物が好きですか?」ばかり聞いてしまう。それが一週間の実習を終えたら、それ以上の話ができるようになったと。
実習先では、留学生たちと毎日接して、専門の先生方の授業を見学させていただいて、学生たちは「自分だったらこういう授業ができるな、こんな話ができるな」と学べたのだと思います。
――たった一週間でそれだけ変わるとは、すごいことですね。若いからこその成長速度。
若いっていうのは羨ましい、本当に。自分自身もそうだったなって(笑)
やっぱり私たち教員がただただ「こういうこと話したらいいよ、やったらいいよ」と言うよりも、彼ら自身で見て学ぶのが一番で、身に付くんだなと感じましたね。
――本人も周りも明らかに成長を感じ取れるんですから、本当に効果のあるプログラムなんですね。多くの学生さんに高知県立大学の日本語教員養成プログラム選択してほしいですね。

