三重県鈴鹿市は、全国でも早くから外国人住民を受け入れてきた「外国人集住都市」の一つです。自動車産業を背景に、日系人を含む多くの外国人労働者が集まり、現在では多国籍化が進んでいます。
外国人住民の増加とともに、地域社会や教育現場ではどのような課題が生まれ、どのような取り組みが行われているのでしょうか。
今回は、鈴鹿市 市民対話課 外国人交流室の國分さんと、教育委員会教育支援課 日本語教育担当の中尾さんにお話を伺いました。
30年以上続く多文化共生の背景
―鈴鹿市は多文化共生に力を入れている印象がありますが、こうした取り組みが始まった背景を教えてください。
國分さん:鈴鹿市はいわゆる「外国人集住都市」と呼ばれる自治体の一つです。背景として大きいのは自動車産業ですね。雇用があるため外国人が増えました。
特に1990年の入管法改正以降、ブラジルやペルー出身の方が増えていきました。そこから約30年、外国人住民は増え続けています。リーマンショックで一度減少しましたが、現在は在留資格の多様化もあり、また増加傾向です。
最近では国籍も増えていて、現在は60を超える国から来られた方が鈴鹿に住んでいます。
―かなり多国籍化していますね。
國分さん:そうですね。以前はブラジルやペルーが中心でしたが、最近はベトナムの方も増えています。三重県全体ではすでにベトナムが最も多い国籍になっています。
長く住んでいても日本語を話せるとは限らない
―長く住んでいる外国人の方は、日本語は話せるのでしょうか。
國分さん:必ずしもそうとは限りません。例えば鈴鹿市にはブラジル人学校があり、そこに通う子どもたちは日本語に触れる機会が少ないと聞いています。
市役所にはポルトガル語の通訳職員がいますが、相談対応は年間5,000件以上あります。自治体の規模を考えるとかなり多い数字だと思います。
また、外国人コミュニティの中で生活が完結する場合もあり、「長く住んでいる=日本語ができる」とは言えないのが現状です。
―もともと住んでいる日本人住民の方々は、言葉の通じない人たちが同じまちに住んでいることについてはどう捉えているのでしょうか。
國分さん:令和4年度、多文化共生の計画を作成する際に、住民アンケートを行いました。
そこから読み取れるのは、鈴鹿市に外国人が増え始めてから約30年と長いので、もともとの住民の皆さんも「今突然外国人が増えてきた」という感覚ではないということです。日本語を話せない外国人が隣にいるからどうということではなくて、それが日常。ただ、「日本人同士の関係も希薄になってきている中で、日本人と外国人との関わりはより希薄である」というようなお声も散見されました。

多文化共生の新たな課題-どこまで多言語化するか
―多文化共生を推進する中で、國分さんたちが最近感じている課題について伺えますか?
國分さん:一番大きいのは「多言語化をどこまで進めるか」です。外国人住民の国籍が増えると、それぞれの言語に対応する必要が出てきます。ただ、すべてを翻訳するにはコストもかかりますし、コストを払うことについては日本人側の理解も必要になります。
一方で、行政手続きや税金などは、「知らなかった」で済ませるわけにはいきません。そのため、やはり外国人住民の方にある程度日本語を身につけてもらうことが重要だと考えています。
―他の自治体の方からも、日本語教育の重要性をよく聞きます。
國分さん:そうですよね。技能実習などの制度でも、日本語能力を十分に身につけないまま来日するケースがあると聞きます。地方自治体としては、「地域で生活できる日本語」を身につけてもらうことが非常に重要だと感じています。
外国人労働者と家族のためのオンライン日本語教室
―鈴鹿市が特に力を入れている施策はありますか?
國分さん:外国人住民の日本語能力向上を目的として開始した、オンライン日本語教室ですね。
地域にはボランティア主体の日本語教室が3つありますが、ボランティアの皆さんの熱意と誠意に支えられてなんとか運営を維持しているというのが現状で、外国人住民の増加に対して十分な場や機会を提供できている状態とは言えませんでした。
そこで令和7年度から、企業の外国人労働者とその家族を対象としたオンライン初級日本語教室を始めました。実際の運営は、鈴鹿市国際交流協会が日本語教育事業者に委託して行っています。
―オンラインですか。それは労働者のご家族も移動せず家で日本語を学べるので良いですね。
國分さん:はい。鈴鹿市は市域が広くて、教室まで通うのが難しい方も多いんです。オンラインなら職場や自宅から参加できますし、企業にも協力してもらいながら実施しています。
学校現場で急増する外国ルーツの子どもたち
―子どもの教育についても伺いたいのですが、鈴鹿市の学校はどのような状況でしょうか?
中尾さん:コロナ禍以降、海外から直接編入してくる子どもが増え、学校現場では日本語初期指導に追われているのが現状です。
もともと日本語指導が必要な子どもも多い中、それに加えて来日したばかりの子どもへの対応にも迫られており、通訳さんを雇用してなんとか対応していますが限界があると思っています。
―保護者も日本語が分からない場合がありますよね。
中尾さん:そうですね。日本の学校制度が分からない保護者も多く、高校受験など子どもの進路についても大きな課題があります。
また、子どもたちは一日の大半を学校で過ごしているので、日本語が早く上達していくけれども、今度は逆に保護者と十分にコミュニケーションが取れなくなるケースもあります。保護者は職場で使う日本語はわかるけれども、学校の言葉はわからないので、子どもと深く話すことが難しくなってしまうんです。
そのため、進路相談などでは通訳を派遣して、家庭と学校の橋渡しをするようサポートしています。
子どもたちの間では「多文化共生が当たり前」
―日本人の子どもたちは、外国ルーツの子どもをどのように受け入れていますか。
中尾さん:鈴鹿市では30年ほど前から外国にルーツのある方が増えているので、子どもたちにとって学校において「外国にルーツがある友達がいるのが当たり前」です。国籍を意識するというより、みんな同じ友達として受け入れているケースが多いですね。新しく来た子どもにも温かく接してくれる子が多いと感じています。
鈴鹿市には外国籍の子たちを受け入れている高校もありますし、三重県には入試制度として外国人特別枠というのもあるので、来日したばかりの子どもたちはその枠で入試を受けることもできます。
ただ、高校入学以降の進路、つまり大学進学するか就職するか、また就職する場合、正規雇用になるか非正規雇用になるかといった点は、高校の先生方もすごく課題を感じられていると聞きます。ご両親が外国から来ているので、自分の親に進路相談が十分にできないというのは切実な問題ですね。
これからの多文化共生に必要なこと―「知る機会」を増やす
―最後に、鈴鹿市の今後の多文化共生推進の取り組みについて教えてください。
國分さん:今後は「啓発」をより強化していきたいと思っています。
昨今、日本全体に外国人への排他的な雰囲気があり、外国人住民について、実際に接した経験がないままイメージだけで判断してしまうケースもあると思います。そのため、日常的に外国について考えたり触れたりする機会が少ない中でも、外国の文化や人々を知る機会を増やすことが大切だと考えています。
その例として、国際交流協会のイベントに参加いただいたり、国際交流員(CIR)による講座などがあります。難しい話や講義ではなく、「この国にはこんな文化があるんだ」と気軽に知ってもらうだけでも大きな意味があります。これは令和8年度以降も力を入れたいと思っています。
また、市の広報誌で多文化共生を特集した際には、それをきっかけに日本語教室のボランティアに参加してくれる市民の方もいらっしゃいましたし、「こんな取り組み初めて知りました」ってお電話を頂いたりもしました。なかなかそういう電話って市役所にかかってくることないので、とても嬉しい反響でした。(→実際の広報紙)
こちらが情報を届ければ関心を持ってくださる方は多いのだと感じています。

地域の生活者として受け入れる
國分さん:2027年に技能実習制度から育成就労制度に移行しますが、育成就労制度は「人材育成」と「人材確保」を明確な目的として掲げています。
ただ、単に人材確保だけ達成することと、その地域で不自由なく生活でき、地域と調和し活躍できる人材確保を達成することは別次元で、まったく意味合いが違います。
外国人労働者を受け入れることは、地方自治体にとっては「地域の生活者」として受け入れるということ。そして、受け入れたら終わりではなく、そこから外国人住民の生活が始まっていきます。日本全体で外国人労働者の受け入れが増える中、国としてその辺りの支援や法整備には一層力を入れてほしいと思いますが、同時に、私たち行政も諦めずに今後も多文化共生へ注力していきたいと考えています。

