外国人も日本人も地域の文化を楽しんでほしい――韓国出身・新潟県地域おこし協力隊流の多文化共生

全国各地で外国人住民が増加する中、新潟県で日本人と外国人を繋ぐ架け橋として活動しているのが、韓国出身の新潟県地域おこし協力隊、ユ・ミンヒョンさんです。
国際交流員として県庁で4年以上働いたのち、自らのアイデアを形にできる現在の立場へ転身。広大な県内で、地域の日本語教室のない「空白地域」への支援や、国籍を問わず楽しめる多文化交流イベントの企画に取り組んでいます。
今回のインタビューでは、ユさんが日本へ渡って来た理由から、雪国での暮らし、自身のルーツを活かしたユニークな交流の形まで、地域と外国人住民を繋ぐ最前線のお話を伺いました。

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疑問を解消するために韓国から日本へ

――まずは、日本との縁ができたきっかけや、日本に住み始めた理由を教えていただけますか。

ユさん:実は、最初から日本に特別な縁があったわけではないんです。ただ、韓国と日本は距離が近いので、韓国のメディアや周りの人たちが日本の国や日本人について、様々なことを言っているのをよく聞いてきました。
ある時、ちょっと不思議に思った出来事がありました。おそらく日本人の友達も知り合いも1人もいないであろうおじさんが、「日本人はああだこうだ」と言っていたんです。私はそれを聞いて、この人は実際に日本人に会ったこともないのに、なぜそれがわかるのだろう、なぜそう決めつけているのだろうと疑問に感じたんです。それなら、日本がどういう国なのかを直接自分の目で確認したいという気持ちになって。元々アニメも好きだったし、日本の文化にも興味があったので、まずは留学の準備をして、最初に名古屋の大学へ正規留学しました。

――行ったこともない場所、会ったこともない人のことを知ったように語ることへの疑問が、日本へ向かう最初のきっかけだったんですね。メディアの影響などで偏ったイメージを持つのは、どこの国でも起こり得るでしょうね。

ユさん:そうですね。メディアの影響は一番強いと思います。
名古屋の大学で4年間勉強して卒業してから、名古屋で1年弱ほど過ごしました。その後、韓国に帰国して色々と準備をしているうちに、JETプログラム(※1)という制度をたまたま発見したんです。楽しそうだなと思って応募して、再び日本へ来ることになりました。その赴任先が新潟だったんです。

※1 JETプログラム…語学指導等を行う外国青年招致事業。外国の青年を招致し、地域レベルの国際交流の進展や語学教育の充実を図ることを目的とした人的交流プログラム。

――ユさんは地方自治体に所属する国際交流員になったということですね。

ユさん:そうです。新潟県庁の所属でした。そして今は、同じく新潟県の地域おこし協力隊として活動しています。

――ということは、お住まいは県庁所在地である新潟市なのですね。北陸地方の中では一番大きな都市だと思いますが、住み心地はいかがですか。

ユさん:人混みが苦手な私にとってはちょうどいい住みやすさですね。東京や大阪は人が多すぎるんですけど、新潟市は田舎すぎず都会すぎずという感じで、ちょうどいい加減がとても気に入っています。

韓国を紹介するユさん

マイナス10度の韓国と、びっしょびしょになる新潟の雪

――ユさんは韓国のソウル近郊で育ったと伺っています。韓国は冬がとても寒いイメージがありますが、気候の違いには戸惑わなかったですか。

ユさん:やっぱり韓国の冬は本当に寒くて、マイナス10度くらいまで冷え込むことがあります。私の地元はソウルよりも少し北に位置しているので、さらに寒さが厳しいんです。ベランダに置いている洗濯機が凍ってしまうこともあるくらい。なので、最初に名古屋に留学した部屋探しの時に、洗濯機が凍らないか心配して聞いたら、「そんな心配事は聞いたことがない」と笑われました。

――名古屋や新潟は、気温自体はそこまで極端に低くはならないですからね。ただ、新潟といえばやはり雪ですが、雪の多さには驚かれたのではないですか。

ユさん:そうなんです。新潟も気温はそこまで低いわけではないんですけど、雪がたくさん降るんですよね。今でも雪には慣れないんですけど。私が新潟に来る前に想像していた雪は、サラサラした雪だったんです。空気がすごく冷たくて晴れていて、雪がサラサラと綺麗に積もっているような。でも実際に新潟に来てみたら、湿気が多くてびっしょびしょになる雪だったんです。これだけは、何年住んでも慣れないですね。

――それでも、国際交流員として4年4ヶ月、2026年1月に協力隊に就任されて8ヶ月、5年間も新潟で暮らしてこられたのは、それ以上に魅力があったからでしょうか。ユさん:そう、雪の苦労以外は本当にいいところばかりなんです。特に新潟の皆さんは人情に溢れていて、色々な方から優しく温かい言葉をかけてもらえます。東京とか外国人が多くいる場所だと、時には冷たくされたりすることもあると聞きますけど、新潟では「韓国から来ました」と言うと、ほとんどの人がもっと優しくしてくれたり、温かく迎え入れてくれたりします。それが本当にありがたくて、すごく住みやすいです。

広大な新潟県にある日本語教育の空白地域

――そんな新潟県で、地域おこし協力隊としてどのような活動をされているのでしょうか。

ユさん:私の活動は大きく分けると2つあります。1つは外国人と日本人住民が交流する場を作ることで、私が企画から準備、当日の開催までを行います。もう1つは外国人住民への日本語教育の推進です。私は日本語教師ではないので直接教えるわけではないんですけど、県内の日本語教育の環境を整えるサポートをしています。新潟県は地図を見るとわかる通り、すごく長くて広いんですよね。その中に市町村がたくさんあるんですけど、地域の日本語教室が存在しない、いわゆる「空白地域」がまだ半分くらいあるんです。

――県内の約半分の市町村には、まだ地域の日本語教室がないのですね。

ユさん:そうです。これから外国人受け入れの制度も変化していく中で、それに合わせて県内でももっと日本語教育を充実させようという動きがあります。県として日本語教育の充実などを支援する新しい補助金制度も作ったので、私も県の担当者と一緒に市町村を訪問して、地域の状況を聞いたり、補助金を活用して教室を作りませんかという提案をしに行ったりしています。

――新潟県内の外国人の方は、技能実習生や特定技能の方が多いのでしょうか。どのような仕事に就かれている方が多いのでしょう。

ユさん:働いている方だと、製造業に従事している方が多いですね。例えば、煎餅などの食品関係や、ニットなどの繊維産業など。コロナ禍以降、新潟県内の外国人住民数は増え続けているので、これからも外国人住民は増えていくと思います。

――実際に市町村を回ってみて、自治体の反応はいかがですか。

ユさん:課題としては市町村によって外国人の割合や居住者が多い在留資格の種類などが違うという点があります。新潟県全体で見ても、外国人住民の割合は全国に比べるとまだ少ない方なんですが、最近、多文化共生を進めるために地域おこし協力隊を募集している市も増えており、新しく地域の日本語教室を立ち上げようとしているところもあります。それぞれの地域の状況に合わせた 外国人向けの支援を進めているところです。

――外国人住民が急増してから慌てるパターンは全国の自治体で見られますが、メディアのネガティブな報道などの影響で、地域の人が外国人の増加に不安を感じてしまうのも避けたいですよね。

ユさん:確かにそうですね。メディアの影響で外国人に対してネガティブなイメージが作られてしまうと、住民の方々の間にも良くない感情が生まれてしまいます。なので、私も地域の皆さんが気軽に外国人と交流できる場があればいいなと思って活動しています。これまではどうしても新潟市が中心になっていたので、これからは隣の三条市や燕市など、県内の色々な地域に交流の場を展開していきたいです。

画像引用元:Map-It

外国人にも地元の人にも地域文化を楽しんでほしい

――自らも外国人であるユさんご自身が新潟で温かい経験をされているからこそ、他の外国人の方も地域との接点さえあれば、というところでしょうね。

ユさん:そうですね。留学生なら学校の中で先生に聞いたり相談したりできますけど、技能実習生は会社や監理団体の方との繋がりはあっても、職場以外の人間関係や友達を作るのは難しいと思います。同じ国から来た何人かでコミュニティを作って、それなりに充実して過ごしているかもしれませんが、せっかく日本に来たんだから、日本の文化を知ったり地域の人と関わったりして、もっと楽しんでもらえたらいいなと思っています。

例えば、日本人のご家庭に招待されて遊びに行けば、日本の家はこういう作りなんだとか、こんなものがあるんだという文化の違いがわかります。地域の祭りや人気スポットを訪れれば、この地域にはこんな伝統や風景があるんだと知れます。そうやって日本や新潟の文化を知ることで 日本の習慣や考え方をより理解することができ、 地域の人との会話も増え、日本での生活をより楽しく、充実したものにしていただきたいです。

――地元の方と外国人住民を繋ぐ交流イベントは、どのような内容で練り上げているのでしょうか。

ユさん:最初は単純な日本語おしゃべり会のようなものを企画してやってみたんですけど、ただ話すだけではなくて、何か体験を通じて自然に日本語を聞いたり話したりできる場がいいなと思うようになりました。地域のイベントに参加させてもらうのもいいですし、私もイベントを企画します。それが参加者同士の交流と日本語の練習の場になれば。

――東南アジアなど雪を見慣れない国から来た方なら、雪を使った体験も喜ばれそうですね。

ユさん:そうですね。雪を見たことがない方はすごく喜んでくれると聞いているので、そういった活動も取り入れたいです。例えば新潟には津南町という雪深い町があって、そこのスキー場で大勢でランタンを夜空に上げる素晴らしいイベントがあるんです。そんな、地域ならではのイベントに参加するのも良いと思います

――ユさんは外国出身の視点を持っているからこそ、地元の人には当たり前になっている新潟の面白いところや魅力に気づけるのだと思います。

ユさん:日本人の方はよく「自分の地域には何もない」と言いますけど、それはずっと住んでいて当たり前になっているだけで、本当は色々な魅力があります。だから、私のイベントには日本人にも参加してもらって、半分は日本人、半分は外国人という割合で集まってもらうのが理想です。地元の人たちにも、地域の魅力を再発見してもらえたら嬉しいです。地元にはこんな面白い場所があったんだ、こんな楽しいところがあったんだって。

ユさんの好きな新潟の風景「やすらぎ堤」

広報活動の壁

――イベントの広報活動もユさんが担っているのですか。

ユさん:今まさにそれが大きな課題で。イベントは知ってもらえないと成り立たないので、どうやって色々な人に情報を届けるか、常に悩んでいます。今後、もっと様々な手段で発信していきたいです。

――お年寄りに届けるとなると、やはり地域の新聞やテレビなどのアナログな手段が必要になりそうですね。

ユさん:そうですね。地域の新聞や市町村の情報誌に掲載してもらえれば、色々な方の目に触れると思うので、そういった方法も検討しています。今は新潟市での活動が多いのでSNSでなんとか発信できていますけど、これからもっといろいろな市町村で何かをやろうとなった時は、行政の力も借りて情報を届けるのが大事かなと思っています。

韓国料理教室を開催しているユさん

自身を活かして働ける新潟県地域おこし協力隊は楽しい

――ところで、新潟県の国際交流員から地域おこし協力隊へと立場が変わりましたが、現在のお仕事は楽しいですか。

ユさん:国際交流員の時は、通訳と翻訳を通じて、新潟県の国際交流や魅力発信に貢献しているというやりがいがありました。今の地域おこし協力隊という立場では、自分からこれをやりたい、これが楽しそうと思ったことを、実際に自分で企画して形にできるんです。そこが一番楽しい。且つ大変でもあるんですけど、今はそれを楽しんでいます。

――それはやりがいがありますね。地域おこし協力隊制度では、受け入れ側の自治体によっては方針が曖昧で協力隊員が戸惑うケースも全国的に多いと聞きますが。

ユさん:私は最初から自分で考えて企画をやりたいという意思があったので、今の環境が合っているのだと思います。県の担当の方も、あれはダメこれはダメと制限せずに、かなり自由にやらせてくれているので、本当にありがたい環境です。

――ユさんの任期はあと2年以上残っていますが、その間にこれだけは絶対にやりたいという目標はありますか。

ユさん:最近はK-POPや韓国ドラマの人気もあって、韓国語を勉強している日本の方がとても多いんです。私の周りでも、韓国関連のイベントをやってほしい、韓国語の勉強になるような企画をしてほしいという声をよく聞きます。
試しに、5月に韓国好きな人が集まるようなイベントを企画してやってみたんです。日本人の参加者が多いんだろうなと思っていたら、意外と東南アジアを中心に外国出身の人たちもたくさん参加してくれたんです。

――それは意外な展開ですね。日本の地方都市で、東南アジアの方が韓国文化のイベントに参加するというのは面白い現象です。

ユさん:本当に。これからは韓国の何かをテーマにすれば、日本人だけじゃなくて韓国に興味のある色んな国の人が集まってくれるということがわかりました。参加者共通の興味を韓国に設定して、交流できるイベントを定期的にやってみたいと思います。

――それはまさに、韓国出身で日本語も完璧に話せるユさんにしかできないアプローチですね。

ユさん:私が韓国語のネイティブだから、韓国好きの方や韓国語を勉強している方は興味を持って集まってくれるので、そこはちょっと、まあ、韓国人でよかったということで(笑)

――韓国から新潟へやってきて、前向きに働くユさんのお話はとても興味深かったです。ありがとうございました。

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