四国学院大学(香川県善通寺市)は、幅広い学問分野を横断的に学ぶことができるリベラルアーツ教育を実践し、学生の関心に合わせた多様な学びの場を提供しています。同大学では、国家資格「登録日本語教員」の制度化などで現在社会的な注目度が上がっている日本語教員養成課程を、四国で最も早い時期から設置しています。
今回は、同大学で日本語教員養成課程を担当されている言語学の専門家・齊藤学教授にインタビューしました。全学生が受講できる同大学独自のカリキュラム編成から、演劇を取り入れたユニークな教育実践、激動の日本語教育業界が求める人物像まで、たっぷりとお話を伺いました。
(※四国学院大学の資格取得についてはこちら、メジャー制度等学びの特徴についてはこちらをご参照ください。)
四国学院大学 教授 齊藤 学(さいとう・まなぶ)先生
東京日本語学校(長沼スクール)、東京学芸大学大学院などで日本語教育を専門的に学び、博士課程では九州大学大学院で言語学を専攻。台湾の大学での指導経験を経て、四国学院大学へ。同大学の日本語教員養成課程では、言語学の視点から日本語の構造を紐解く語学系科目を担当し、激動の時代に求められる「自ら考える力」を持った日本語教員の育成に力を注いでいる。
リベラルアーツ教育と日本語教員養成課程
――貴学の日本語教員養成課程の概要について教えていただけますか。
齊藤先生:本学はリベラルアーツ教育を行っており、最終的には自分の専門である「メジャー」を決定するのですが、特定の専門分野に縛られすぎず、幅広く学際的に学べる点が大きな特徴となっています。その一環として「キャリア拡充コース」という制度があり、メインで勉強している専攻分野とは別に、様々な資格を取得するためのコースが用意されています。日本語教員養成課程もその中に含まれているため、全学部の学生が履修可能となっています。
――他大学のケースですと「文学部の日本文学科限定の日本語教員コースです」といったお話も伺うのですが、貴学の場合、全学生に門戸が開かれているのは魅力的ですね。ということは、教員免許や保育士、学芸員などの資格と並行して登録日本語教員の取得を目指せるのでしょうか。
齊藤先生:そうです。特に日本語教員養成課程を履修する学生は、小中高の教員免許、中でも中高の国語の教員免許と一緒に取得を目指す人が非常に多いですね。中高の国語の教員になるための科目と、日本語教員になるための科目は、内容的に重なっている部分もありますので、履修計画も比較的立てやすくなっています。中には、小学校の教員免許、中高の国語の教員免許、さらに日本語教員資格という3つ全ての取得を目指して頑張っている学生もいます。
――それはものすごい頑張り屋ですね。3つも資格を取るとなると、ほとんどひっきりなしに授業に出ているような状態なのではないでしょうか。
齊藤先生:そうですね。現在はキャップ制(履修登録できる単位数の上限設定)が導入されているのでそこまで極端に多い学生は少なくなりましたが、以前は卒業に必要な単位が130単位であったところを、160単位や170単位、多い学生だと200単位近い単位を取得して卒業していく学生もいました。本学にはそれだけ熱意のある学生たちが集まっています。

1989年開設の歴史と、激変する日本語教育事情
――貴学の日本語教員養成課程はどのくらいの歴史があるのですか。
齊藤先生:開設されたのは1989年です。四国の中では、おそらく一番早くに開始された日本語教員養成課程なのではないかと思います。
――40年近い歴史があるのですね。先生もやはり日本語教育畑が長いのですか。
齊藤先生:私自身も学部の頃は別の分野を学んでいたのですが、東京日本語学校(長沼スクール)で1年間日本語教育の基礎を学んだ後、1992年に東京学芸大学の大学院に新設された日本語教員の専門コースで学びました。博士課程では言語学の道に進み、国立国語研究所にも少しお世話になりながら、ずっとこの分野に関わってきました。
――長い間、日本語教育の世界を見つめてこられたのですね。昨今、業界の情勢はかなり変わってきていると思いますが、その辺りについて先生はどのようにお考えですか。
齊藤先生:本当にものすごく変わってきました。特に1990年代から、CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)のやり方を導入し、Can-do(何ができるか)を重視する流れが生まれました。当時は噂で聞いていた程度でしたが、まさかここまで日本語教育の教え方が根本から変わるとは驚きでした。
また、日本国内の留学生や外国人労働者の数も非常に増えてきました。私が本学に来てから10年程経ちましたが、それ以前は台湾の大学で日本語を教えていました。台湾には当時からたくさんの外国人がいましたが、今の日本も台湾のようになりつつあるのだと思います。
――日本は遅れてきた国際化を迎えているという印象でしょうか。
齊藤先生:そうですね。東京などでは以前から外国人が多かったと思いますが、香川県でも最近は非常に増えてきています。介護の現場で働く方や、技能実習生など、地方であっても外国人と日本人が日常的に交流するようになってきました。

登録日本語教員の認知度と必要性
――そのような情勢の中で、「登録日本語教員」として国家資格化されました。国としてもようやく本腰を入れ始めたところです。
齊藤先生:日本語教育関係者が1990年代から粘り強く制度化を求め続け、その努力がようやく実を結んで法制化につながったのだと思います。
――先生が赴任されてからの10年間で、学生さんの意識や養成課程を受講する人数に変化は見られますか?
齊藤先生:ここ10年ほどは毎年3名から8名程度の間をうろうろしているような状況だったのですが、昨年度の新規履修生(2026年度の2年生)は一気に13名になりました。倍近くに増えたことになります。登録日本語教員のニュースや、外国人が身近に増えてきたことで、日本語教育に対する関心が非常に高まってきているなと肌で感じています。
――そういった学生さんたちは、高校生時代から日本語教員という仕事を認知して入学してくるのでしょうか。
齊藤先生:言葉自体はなんとなく聞いたことがある、という高校生は増えていると思います。ただ、実際には何をする職業なのかとか、どのくらい社会的なニーズがあるのかといったことまではよく分かっていない人が多いです。とはいえ、オープンキャンパスなどで「最近は国語の先生と日本語教員の両方を目指す学生がたくさんいますよ。そちらに関心はありませんか?」と少し水を向けてみると、「実はちょっと関心があったんです」と興味を示してくれることも多いですね。
――日本国内にいる外国人の国籍が多様化し、共通語としての日本語を教えるニーズは全国で高まっています。また、外国人の就労制度の変化に伴って家族帯同が増え、子供の日本語教育も急務とされていますよね。
齊藤先生:おっしゃる通りです。外国人の子供の教育については、まだまだ十分な手当てがされていません。その結果、母語も日本語も十分に発達せず、深い思考ができなくなってしまう「ダブル・リミテッド」のような状態に陥る子供が出てきてしまっています。
だからこそ、小学校や中高の教員を目指す本学の学生たちに、日本語教育の視点を持ってほしいのです。教育現場での取り出し授業で何が行われているのか、外国人保護者とどうコミュニケーションを取ればいいのか。そこに気を回せる教員がこれから益々必要になります。

自分の頭で日本語の構造を考えること
――日本語教員養成課程を選択する学生さんは、まずはどのような授業から受けていくのでしょうか。日本語を外国語として客観的に捉えるのは、学生さんにとって初めての体験ですよね。
齊藤先生:一番最初は「日本語教育概論」から始まります。本学の養成課程は、教育学分野をディレクターでもある田中千恵子先生が担当し、私は日本語の語学や言語学、社会言語学的な分野を担当しています。やはり、日本人として自然に使っている日本語を分解して教えるのは難しいものです。例えば「させられる」という使役受身の表現などを、外国人がどう理解していくのかを想像するのは、最初は戸惑うものです。
――その想像ができないと外国人には教えられないということですね。
齊藤先生:ですから、私の授業では日本語の構造がどのようになっているかという語学的な部分にかなり重きを置いています。述語が中心にあって、格が決まり、ボイス(態)が入り、アスペクトが加わると意味がこう変わる…といった日本語の構造の全体像を、しっかりと言えるようになることを目標にしています。今の日本語教育の主流であるトップダウン重視の教え方とは逆行するボトムアップな手法かもしれませんが、教師になる人間としては、まず日本語の仕組みを下から積み上げて理解し、その上でトップダウンで教えるのが適していると私は考えています。
――学生さんたちは、そのように外国語としての日本語を基礎から論理的に学ぶことに面白さを感じてくれますか。
齊藤先生:本学の学生は、丁寧に説明すればしっかり理解しようとする真面目さがありますが、これまでの教育経験から、知識を受け取る学びに比重が置かれがちです。自分で考えながら構造を組み立てる学習は、まだ発展途上です。
しかし、実際に教壇に立てば学習者から未知の質問をされることが多々あって、頭の外、インターネットで調べても分からないことばかりです。そんな時のために、自分で日本語の構造を考えて答えを見つける練習を、学生のうちにしておく必要があります。ですから、聞いて覚えるだけでなく、学んだ構造を自分で口に出して説明させるようにしています。
――スマホで検索するのをぐっと我慢して、知らないことについて自らの頭と感性で探求するのを面白いと感じられればいいですね。
齊藤先生:そうですね。私の授業では教え込むのではなく、最初に私から学生たちに疑問や問いを提示します。学生たちによく考えてもらった後で「こうした理由から、その問いにはこのように答えられる」と示してもらい、理由と答えが整合していれば良しとしています。とにかく自分で考える癖をつけてもらうことが最優先です。

四国学院大学ならではの3つの特色① 実践的な実習プログラム
――座学の他に、実習も豊富だと伺っています。どのような場所で行われるのですか?
齊藤先生:国内では地域の日本語学校や、高松・丸亀などの国際交流協会で実習を行います。海外では、韓国や台湾の交流協定校で教える選択肢があります。 そしてもう一つ、本学ならではの大きな特徴として、長年交流のある韓国の韓南(ハンナム)大学校とのプログラムがあります。毎年2月に韓国から10名ほどの学生が本学にやってくるのですが、彼らに対して日本語と日本文化を教えるプログラムを、養成課程の学生たちが自分たちで企画・立案して実践するのです。
――学生さんが自らプログラムを組むのですか。それは非常に実践的ですね。
齊藤先生:はい。最初のアイスブレイクから歓迎会まで、全て自分たちで運営します。もし将来日本語教師になったら、目の前の授業だけでなく、夏休みの集中研修などプログラム全体を立案する機会も出てきます。先輩たちが作った過去のプログラムをベースにしながら、「今年はここを変えてみよう」と試行錯誤することで、受動的だった学生も見違えるように能動的に成長していきます。
四国学院大学ならではの3つの特色② 演劇を取り入れた日本語教育
――実習の他にはどのような取り組みがありますか。
齊藤先生:本学の強みとして、演劇を取り入れた日本語教育を実践している点も挙げられます。というのも、本学には「演劇コース」という専門課程があるのです。演劇コースの学生、日本語教員養成課程の学生、 留学生の3者が協力して、日本語教育に関わる一つの演劇を作るという取り組みを行っています。
――日本語教育に演劇ですか。それは興味深いです。
齊藤先生:昨今、日本語教育の中で演劇的手法が非常に注目されているのですが、通常の日本語教師は演劇のノウハウを持っていません。本学には、演劇コースにおける蓄積があります。状況に合わせた声のトーン、視線の合わせ方、体の使い方、表情の作り方など、非言語の要素と結びついたコミュニケーション法を学ぶことができます。また、演劇を専門で学ぶ学生たちの表現力から刺激も受けますし、将来教員になった際に彼らとコラボレーションするなど、人脈を作れるというメリットもあります。そういった意味で、非常に有意義な場になっています。


四国学院大学ならではの「3つの特色」③ マグノリア・カフェでの現役教師との交流
齊藤先生:「マグノリア・カフェ」という取り組みも売りにしています。これは学長の肝入りで実施している自主ゼミのような制度で、正規の授業とは別に、教員と学生が食事を共にしながら、日本語教育の歴史や今後のあり方について毎週話し合いを行っています。
――食事をしながら交流できると、先生と学生さんの距離も縮まりそうですね。
齊藤先生:ええ。さらにこのマグノリア・カフェの予算を使って、実際に日本語を教えている現役の先生方をお呼びして講演会も開いています。昨年卒業したばかりの新人の先生や、何十年も活躍されているベテランの先生、地域の国際交流協会で教えている方などをお招きし、食事をしながら現場の話を聞くことができます。また、この予算を使って実際に日本語学校へ見学に行き、学習者と交流することも行っています。
――大学にいながらにして、社会人や現役の先生と深く関われるのは、進路選択への大きなアドバンテージになりますね。
齊藤先生:私たち大学教員と話すだけでは、現場のイメージはどうしても湧きにくい部分があります。「実際の日本語学校はこういう雰囲気なんだ」、「先生たちはこんなことを考えながら働いているんだ」と、学生のうちに情報を得て働くイメージを持っておくことは、とても有益です。




必要とされる職業・日本語教員
――充実したカリキュラムを経て、実際に日本語教員の道へ進まれる学生さんもいらっしゃいますか。
齊藤先生:はい。昨年度も1名が日本語教員試験に合格し、ヒューマンアカデミー大阪校への就職が決まりました。一昨年度もメリック日本語学校へ就職した学生がいます。これまで専任教員になるには「非常勤で3年以上の経験が必要」といった慣例がありましたが、今は資格さえあれば未経験でもすぐに専任として採用される時代へと変わってきています。
――業界全体の待遇も改善傾向にあり、需要は高まる一方です。学生さんにはぜひこの道を考えていただきたいですね。
齊藤先生:そう思います。これからの日本社会において、日本語教員は間違いなく必要とされる職業です。一人でも多くの高校生や学生の皆さんに、日本語教員の面白さや重要性を知っていただき、本学に足を運んでいただければ嬉しく思います。

