多文化共生の学習支援拠点CEMLA(相模女子大学):子どもたちにとってもボランティアにとっても心地良い「居場所」に。

週末の相模女子大学(神奈川県相模原市)のキャンパスに、様々なルーツを持つ子どもたちの声が響く場所があります。多文化共生の学習支援拠点「CEMLA(セムラ:Center for Multicultural Learning & Activities)」です。同大学のほか、NPO法人多文化共生教育ネットワークかながわや神奈川県立高校10校が協働で運営しています。

ここに集うのは、中高生を中心とした「外国につながる若者」たち。言葉も文化もわからないまま、突然日本の学校に通いはじめた子どもたちにとって、CEMLAはどんな場所なのでしょうか。CEMLA代表で相模女子大学OGの妹脊真理子さんと、大学側で活動を見守り続ける相模女子大学教授の永谷直子先生のお二人にお話を伺いました。

目次

海外にルーツを持つ中高生の子どもたちの受け皿として

――まず、CEMLAが生まれた経緯を教えてください。

妹脊さん:元々この地域には外国につながりのある子どもたちが多く暮らしていたので、2007年に神奈川県立新磯(あらいそ)高校(現在は統合)が「この子どもたちは安心して学習できる場所が地域にあるのだろうか」と地域の小中学校の国際教室などに調査を行ったのが発端です。調査の結果、小学生向けの支援教室はあっても、10代、特に中学生・高校生の子どもたちの受け皿が圧倒的に足りていなかったことが分かりました。そこで2009年に中高生の学びと居場所をつなぐ拠点として、相模女子大キャンパスの一角にCEMLAがオープンしました。当時の学長先生が「学外の世界とつながってほしい。授業だけでなく、いろいろなところで学生が活動して学ぶ機会が広がってほしい」とおっしゃったそうです。大学という教育の場で活動することで、自然と大学生もボランティアとして関わるようになっていきました。

――永谷先生は、大学側としてどのように関わってこられたのでしょうか。

永谷先生:私は前任の教員から引き継ぐ形で2015年頃から担当しています。本学の日本語日本文学科には日本語教育に関連する科目群があり、CEMLAでのボランティア活動もその一環としてあります。妹脊さんはその初代の学生ボランティアの一人です。

――妹脊さんもCEMLAの設立当初から関わっていらっしゃるのですね。

妹脊さん:はい。当時、私は大学3年で教職を学んでいました。キャンパスの中にボランティア教室ができると聞いて、「日本語を教えるってどんなこと?まずは行ってみよう」と顔を出してみたのがきっかけでしたね。

「帰りたくても帰れない」子どもたちの心

――CEMLAに来る子どもたちは、具体的にどのような背景を持っているのでしょうか?

妹脊さん:主に中高生の、外国にルーツを持つ子どもたちです。「日本で勉強したい!」と自分の意思で来る留学生とは違って、多くの子どもたちは、日本で働く親御さんに呼び寄せられて来日しています。「日本語がわからない」「友達ができない」「母国に帰りたくても帰れない」そんな寂しさや心もとなさを抱えながら、突然日本の学校に通うことになり、毎日どうにかやり過ごしている人もいます。

――自分の意志ではない環境の変化は、多感な年頃の子どもにとって酷なことですよね。

妹脊さん:そうなんです。だから私たちボランティアは指導するというよりも“寄り添う”ことを意識しています。週に1回、2時間の活動時間がありますが、過ごし方は一人ひとり違います。学校の宿題や分からないところを大学生や社会人ボランティアさんと一緒にやる子もいれば、「勉強は嫌いだけど、お兄さんやお姉さんと話したい」という理由で来る子もいます。
ある中学生の女の子は、日本語をうまく話せないために学校でコミュニケーションが取れず、勇気を出して少し話してみたら、心ないことを言われて余計に口を閉ざしてしまったそうです。CEMLAにやって来た当初、彼女はまったく笑顔を見せませんでした。毎週、大学生のお姉さんが隣に座って、勉強だけでなく、ただお喋りを重ねました。本当に何気ない会話です。でも、それを続けていくうちに、今ではうるさいくらい話してくれるようになって(笑)。笑顔もぐっと増えました。
特別なことは何もしていません。ただ、毎週ここに来れば自分の話を聞いてくれる人がいる。わからないことを正直に「わからない」と言える相手がいる。彼女が毎週欠かさず来てくれるようになったのは、ここが彼女にとって安心できる居場所になったからなのかなと思います。

子どもたちから学ぶことも多い

――子どもたちにとってボランティアさんは「先生」というより身近なお兄さん・お姉さんなんですね。

妹脊さん:そうですね。私がここまで長くボランティアを続けてこられたのも、教える側の一方通行ではなく、お互いに学び合える雰囲気があるからだと思います。今でも私が子どもたちから言葉や文化について教えてもらうことも多いですし、子どもたちと接する中で「私にどんな話ができるかな」「いや、耳を傾けることが大事だな」と、コミュニケーションの取り方を学ばせてもらっています。

――昨今は就職活動のために「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」を作らなければ、という意識が強い学生も多いと聞きますが、CEMLAの学生たちはどうですか。

妹脊さん:今の学生さんは、私たちが学生だった頃とは環境も経済状況も大きく違うと思います。就職もかなり早くから意識しないといけないですし、大変ですよね。
ただ、CEMLAに参加している今の大学生も、根本にある「子どもたちと話をしたい」「少しでも日本語を教えてあげたい」という純粋な想いは昔と変わらないと思います。

永谷先生:「ガクチカ」、確かによく耳にしますが、CEMLAに長く通ってくれている学生たちは、就職のためというより、活動そのものに魅力を感じているのだと思います。
中には、卒業後に日本語教師になったりしてCEMLAでの経験がそのまま将来の職業に結びついたケースもありますが、そういう職業につかなかったとしても、受ける影響は本当に大きいですし、貴重な経験になっていると思います。
あと私もよく学生に伝えるのですが、中高生の子たちと共通の話題で場を盛り上げるのは、私たちのような教員世代よりも、年齢の近い大学生の方がずっと上手ですからね。そういう「自分にしかできない役割」を見つけることも、やりがいにつながっていると思います。

――誰かの役に立っているという実感が学生さんたちの自信にもつながるんでしょうね。

永谷先生:CEMLAはボランティアの学生たちにとっても「居場所」になっています。キャンパスの中で学生として過ごすだけでなく、多様な世代や背景の人たちが集まるコミュニティへ参加し、一員としての帰属意識を持つという経験が、社会へ羽ばたくために必要な人間的成長につながっているのかもしれません。

一人で気負わなくても、一緒に居場所を作ってくれる仲間たちがいる

――妹脊さんは大学卒業後も、平日はお仕事をしながら、週末このボランティアに参加しています。そこまで情熱を注ぐ理由は何なのでしょうか。

妹脊さん:何でしょうか(笑)。やっぱり、子どもたちから元気をもらうからですかね。子どもたちに「来週来る?」って聞かれると、「よし、行こう」って思いますからね。そしてここでボランティアさんやスタッフの先生方と一緒に活動できることがとても嬉しいんです。

――CEMLAは、妹脊さんにとっても大切な居場所なんですね。

妹脊さん:そうですね。学生時代、私もここで出会った大人たちに支えていただきました。日本語スタッフや県立高校の先生方、地域のボランティアの方々も、大学の先生も、みんな子どもたちに真剣に向き合う姿が本当にかっこよくて温かくて。私もたくさん話を聞いてもらいました。
ここでは「頑張らなきゃ」と気負う必要はなく、無理なら「無理!」と言えるし、みんなで一緒に居場所を作り上げていく雰囲気がとても心地良いんですよね。
仕事の関係で1年ほどCEMLAを離れた時期もありましたが、戻ってきた時に「やっぱりいいなあ」って。それからはずっとここにいます。

――永谷先生から見て、妹脊さんはどのような存在ですか。

永谷先生: 妹脊さんの凄さは、学習者の立場に立って考えるといった姿勢が一貫してブレないところですね。子どもたちの小さな変化も見逃さず、みんなが心地よく過ごせる空間を作ってくれる名人です。子どもたちにとっても大学生にとっても、年上のお姉さんがそんなふうにいてくれるっていうのは本当に心強いと思いますよ。CEMLAの大黒柱ですよね。

妹脊さん:いやいや、周りのスタッフのおかげでなんとかできています。永谷先生のように見守ってサポートしてくださる先生方や、心強いスタッフのみなさんに恵まれているんだと強く思います。

―― 現在、CEMLAには毎週20人前後の子どもたちが参加しているそうですが、運営の面で大切にしていることはありますか。

妹脊さん:臨機応変であることですかね。たとえば4月は学校に慣れるのに精一杯で疲れてしまう子もいれば、部活が始まって来られなくなる子もいます。私たちは「毎週来なさい」とは言いません。「来たい時にいつでもおいで」というスタンスです。子どもたちの様子を記録した振り返りシートをスタッフ全員で共有し、前回どこまでやったか、今日はどんな様子かを把握しながら、その日の状況に合わせて一人ひとりにベストな対応を考えます。この“臨機応変力”は、私自身もここで一番鍛えられた能力かもしれません。何が起こっても大丈夫な気がします(笑)。

――最後に、これからボランティアに参加しようと思っている学生さんや、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。

妹脊さん:自分の通う大学の中にこのような教室があって、外国につながる子どもたちはもちろん、地域のいろんな年代や立場の方々と一緒に活動できるというのは本当に貴重な経験だと思うので、一人でも多くの学生さんに来ていただきたいですね。
“学習支援拠点”を掲げていますが、「子どもたちの成績が上がった」とか「日本語能力試験に合格した」みたいな目に見える結果を出そうとしなくてもいいんです。無理せず、みんなで居心地のいい場所にしたいという気持ちでいてもらえれば十分です。

永谷先生: 大学の講義などで「聞く力が大切だ」という話は耳にしていると思いますが、それを実感するのはなかなか難しいと思います。CEMLAの活動で「相手が喜んでくれた」「笑顔を見せてくれた」という実体験を積み重ねることは、本当の意味での学びにつながるはずです。まずは一度、覗いてみてほしいと思います。

―― 支援する側・される側という垣根を超えた、温かいコミュニティの在り方を感じました。本日は素敵なお話をありがとうございました。

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