困っている外国人に手を差し伸べられるような“10人中の1人”に。茨城キリスト教大学の公開講座に込められた想い

 茨城県の北部地域では、少子高齢化による人口減少と、生産年齢人口の大都市圏への転出により、産業の担い手不足が問題となっています。それにより外国人労働者(とその家族)が増加していますが、居住地が点在しているため、行政の支援が届きにくいという新たな問題も生じています。
そのような状況の中、茨城キリスト教大学(日立市)は、「外国人児童生徒支援演習」という科目を、一般の方も受講できる公開講座にしました。その背景には、地域で生まれ育ってきた学生の存在があるようです。
理想と現実の狭間で悩みながらも一歩を踏み出す、学生たちの等身大な学びについて、当講座に関わる文学部 文化交流学科主任の中山健一先生、同じく文化交流学科の教員で、この公開講座を主催する地域・国際交流センター長の宮﨑晶子先生、同センター地域交流課の永田さんにお話を伺いました。

取材にご協力いただいた先生方

茨城キリスト教大学 文学部 文化交流学科

中山健一 教授(写真左)
【専門分野】
日本語学、日本語教育
【現在の研究テーマ】
コーパス分析にもとづく多義語の多義を支える構造の記述

宮﨑晶子 教授(写真右)
【専門分野】
東南アジアの仏教美術
【現在の研究テーマ】
アンコール(今のカンボジア)の観音と王権

目次

公開講座 「外国人児童生徒支援演習」開始の理由

――「外国人児童生徒支援演習」が始まった背景について伺いたいのですが、貴学の立地する日立市には工場が多く、外国籍の方も多いのでしょうか。

宮﨑先生:実は日立市は豊田市や浜松市などのような「外国人集住地域」とは違って「散在地域」なので、加配がつきにくい(公的支援が届きにくい)という事情があります。また、茨城の県北地域に大学本部(本体)を置く私立大学は本学のみです。なので、地域の高等教育機関として、地域社会に対して「散在する外国人児童生徒に対する支援が必要」という意識付けを行う役目があります。そういった背景から始めた講座です。

――使命感があったのですね。

宮﨑先生:どちらかというと、学生から促されました。「なぜ大学は外(現場)に出ないのか」と。
本学の教員には、日立市在住、日立市で生まれ育ったという者が残念ながら少ないんですね。ところが、学生は日立市を含む県北地域で生まれ育ち、今も実家から本学へ通っている者が大多数で、みんな地域の実情を肌で感じながら過ごしてきたわけです。
少子化が加速して、生産年齢人口も地域外へ流出している中で、地域の産業、特に工場は外国人に頼らざるを得ない。学生から、「国産製品を謳っているのに、働いているのは日本人じゃないんだよ」と言われました。また、本学には地域の学童クラブでアルバイトをしている学生もいますし、地域に困難を抱えた外国人の児童生徒が存在していることを知っているんです。

――地域の実情をよく知る学生さんたちの声があり、講座の門戸を地域に開いたわけですね。

宮﨑先生:この講座が卒業生に響いたらいいな、という理由もあります。というのも、本学には小学校教諭などを目指す児童教育学科がありますが、学生たちはアルバイトをするのも難しいというくらいに、教職の単位取得で忙しいんです。特別支援教育の授業もありますが、その多くは発達障害や学習障害関連に割かれます。どちらとも、外国人児童への対応方法の学習まで手が回らないのが現状です。

――そうなると、卒業して現場に出た後で、初めて外国人児童へ指導することになり、戸惑う卒業生の方もいらっしゃるでしょうね。

宮﨑先生:まさにそこなんです。卒業生から「クラスに外国籍の子がいるけれど、どう接していいか分からない」という切実な声が届くようになりました。そこで、現役の学生だけでなく、既に現場に立っている卒業生や地域の先生たちが「学び直し」ができる場として。忙しくて参加できないかもしれないけれど、機会だけは作っておこうと。

講座の様子

「やさしい日本語」で実践

――講座は4日間ということですが、どのような演習を行うのでしょうか。

中山先生:
私が担当した初回は「概論」ということで、地域で問題となっていることや、日本語教育・日本語学習支援などの基礎知識を与えました。また、自分自身の外国語学習の経験を振り返ってもらったり、言葉を学ぶことの困難さについて考えてもらったりもしました。
2回目以降は、地域で日本語学習支援を行っている方々を講師にお招きしました。「やさしい日本語」を軸にして、外国人児童生徒に特化した課題について題論したり、実際にやさしい日本語を使ってみたりと、ディスカッションやグループワークを中心に行いました。

――講座にはどのような方が参加されますか。

永田さん: 昨年度(2024年度)は主に本児童教育学科 幼児教育専攻(現在:幼児保育コース)の学生や、文化交流学科、心理福祉学科の学生で構成されていましたが、今年度(2025年度)は中学校の先生の参加もありました。
本講座は、2021年度から導入した「多文化協働クリエイター」という本学独自の認定の要件科目になるのですが、昨年度、初めて卒業生5名がこの認定を受けました。

――幼児教育を目指す学生さんも受けているということは、やはり外国にルーツのある子どもが地域にいるということなんですね。

社会で“10人中の1人”になっても乗り越えられるように

――これまでお話を伺ってきて、貴学には感受性の強い学生さんが多いのかな、と思いました。

宮﨑先生: 本当に。共感力が強すぎるんですよ、良くも悪くも。そういったテストをしても、共感力の数値が著しく高いという結果が出ています。思い入れが先走って、他者の苦しみを「自分事」として捉えてしまうんです。

講座を受講していた学生からこんな話を聞きました。高校を卒業する時に、ある同級生から「実は韓国籍なんだ」と打ち明けられたと。その同級生は日本名を名乗っていたから、彼女は気付かなかったんですね。で、「どうしてもっと前に言ってくれなかったの?」と思っていたけれども、大学に入っていろんな勉強をしてから改めてその時を振り返った時に、「本当に高校1年の初めましての時に韓国籍だと言われていたら、私はどう接していたんだろう」と考えて恐くなったと言っていました。「もしかしたら避けていたかもしれない」って。卒業まで韓国籍だと明かさなかったのは、それを懸念していたんだろうなと思うと、「自分の持つ先入観というものが恐くなりました」と話していました。

――すごく真面目ですね。

宮﨑先生:とてつもなく真面目ですね。もうちょっと妥協して生きた方が楽じゃない?と思うこともあります。寄り添った相手と一緒に心を傷めちゃったりするので、大人と子どもの境なんだなと思います。
おじいちゃんおばあちゃん含め、家族から愛されて育った学生が多いので、愛し方は多分わかっているし、共感力はあるんです。これから必要なのは技術ですね。

――その感受性を剥き出しにして社会人になるのは大変そうですもんね。

宮﨑先生:卒業生が泣きに来るパターンもありますよ。中山先生のところに遊びに来て社会に対する文句を言って、次に私のところに来て、「外国人を日本に呼んでるのは日本人なのに、なんでその日本人が外国人を理解しようとも思わないんだろう」と怒りながら泣いていました。ティッシュが足りなくなるくらい。

中山先生: 地域柄として、どうしても保守的な風土は残っていますからね。学生たちにとっては、理想と現実のギャップが酷なのかもしれません。でも、そういった意識付けを持って生きていくのと、何も知らずに生きていくのでは全然違う人生になるよ、と学生には言います。

宮﨑先生: だから学生たちには、「あなたたちが学んだことの意味は、はっきり言って9割の人間には理解されないかもしれない。でも、それが大学を出たってことなんだ」と伝えています。日本人全員が大学に進むわけではないし、大学に進んだところで全員が教養科目を深く学ぶわけでもありませんからね。
だから、自分が所属する小さなコミュニティの中で「10人中の1人になれ」。もしも、PTAの集まりや保育園の運動会なんかで、どう振舞えばいいかわからずに困っている外国人のお母さんがいたら、声をかけられる人になってほしいんです。
ある卒業生が泣きながら話してくれたんですが、彼女が産婦人科に行った時、お腹の大きな外国人のお母さんが未就学児の女の子を連れて来ていたそうです。お母さんは疲れていてその子の相手はできないし、日本語も上手じゃない。だから彼女はずっとその女の子の相手をしてあげたと。それでいいんだよ、と彼女に伝えました。

中山先生:それはすごく大事ですよね。学生たちも共感力は高いんですけれども、出発点は「どうしたらいいかわからない」だと思うんですよね。外国人住民がいるのはわかっているけれど、どう関わったらいいかわからないし、なんなら「ちょっと怖い」という先入観があること自体は不思議ではないわけで。それをなんとか、うちの学生だけでも崩していくというのは、やっぱり意義があるのかなと私も思います。

宮﨑先生:社会で“10分の1”になってしまった時に、10分の1だから折れるんじゃなくて、「同じ教室で学んだみんなもどこかで10分の1になっている」。そう思えるように、現実と向き合いながら学びを深めていってほしいですね。

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