岩手県北上市の「多文化共生」――急増する外国人住民と、地域で支える仕組みづくり

今回は、岩手県内でも外国人住民の比率が高い北上市にお話を伺いました。まちづくり部地域づくり課で多文化共生を担当される鈴木ひなのさんに、外国人住民が増加している背景や、彼らを支援する取り組み、地域住民との交流について語っていただきました。現場では様々な課題がある一方で、日本人市民のボランティアへの関心の高まりなど、希望もあるようです。

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コロナ禍を経て急増する外国人住民

――本北上市は岩手県内の市の中では外国人住民の在住比率が高いとのことですが、この傾向はここ20〜30年ほどずっと続いているのでしょうか。

いえ、昔からというわけではなく、全国的な傾向と同様にコロナ禍の水際対策が緩和されてからの増加率が非常に高いですね。令和4年度から7年度にかけて、4年連続で増加しているという状況です。

――新たに来日されている方は、やはり就労目的の在留資格の方が多いのでしょうか。

そうですね、就労資格の方が多くを占めています。就労先は、特定技能の所属企業から市に提出される書類を見ると、やはり製造業が多いです。北上市は東西を山に囲まれ、中央に北上川が流れる自然豊かな市域を誇っていますが、平坦で広大な土地や豊富な水を活かして工業団地を整備しており、岩手県における中核工業都市として発展しています。

――なるほど。工場が立地しやすい環境があり、結果的に外国人労働者も増えているのですね。国籍については、全国的にベトナムの方が多いと聞きますが、北上市でも同様ですか。

割合としてはベトナムの方が一番多いのですが、実はここ数ヶ月でベトナムの方が減少傾向にあります。その一方で、インドネシアの方が増えてきています。監理団体を通じた受け入れ等の影響もあると思いますが、外国人全体の数は増加を続けています。ベトナムの方が減ってインドネシアやミャンマー、ネパールの方が増加傾向にあるということで、以前よりも多国籍化が進んでいると感じます。自転車に乗っている方やスーパーで買い物をしている外国人の方を見かけることが本当に増えましたね。

――東南アジア出身の方にとって北上市の冬は厳しい寒さだと思います。移動手段は主に自転車なのでしょうか。

そうなんですよね。ダウンコートなど厚着をして自転車に乗っている姿を見かけますが、北上市は公共交通機関が1時間に1本以下という地域も少なくなく、必ずしも交通の便が良いとは言えません。そのため、移動手段は自転車に頼るか、会社の人が車でスーパーまで送迎してくれているという話も聞いています。

夏油高原スキー場

多文化共生の契機は国際的なスポーツ大会

――北上市のホームページを拝見したのですが、多文化共生や国際交流のコーナーが大変充実していて驚きました。「多文化共生」という言葉や取り組みは、市としていつ頃から本格化したのでしょうか。

北上市では平成28(2016)年2月に「北上市多文化共生指針」が策定されたのがスタートになります。ちょうど10年前ですね。きっかけとしては、北上市でアジアマスターズ陸上競技選手権大会が開かれたことです。世界中から訪れる選手や関係者の受け入れを経験して、国際理解の必要性が再認識されました。さらに当時はラグビーワールドカップや東京オリンピックも控えており、今後間違いなく外国人観光客も住民も増えるだろうという見込みから指針が策定されました。

国際交流ルーム

日本語学習への対応と、手厚い子どもの教育支援

――現在、多文化共生の取り組みの中で、最も力を入れているのはどういった支援ですか。

一番力を入れているのは「日本語教育」です。令和6年度から7年度にかけては、多文化共生推進の担い手育成にも取り組みました。外国人住民の方にアンケートを取ると、どの調査でも必ず「日本語の学習」が困りごとの一番に挙げられます。そのため、まずはニーズが最も高い日本語学習の機会を整備しようと考えました。

――皆さんは、どの程度のレベルの日本語を習得したいと希望されているのでしょうか。日常会話レベルですか、それとも試験合格を目指しているのでしょうか。

就労資格の方は在留資格の移行等で試験が必要になるため、試験勉強のために集まる方が多いです。一方、家族滞在などで来日された方は、生活のための日本語を求めていらっしゃいます。市が提供しているレベルとしては、文部科学省が設定している「生活に支障のないレベル(N3程度)」までをカバーしています。それ以上のN2やN1といった高度な専門レベルについては、国際交流協会を紹介している状況です。

――家族滞在の場合、お父さんが日中働いていて、お母さんとお子さんが家に取り残されてしまうケースも多いと聞きます。学校や保育園の手続きなど、事務的なことが分からないと切実ですよね。

おっしゃる通りです。家族滞在の方は、技能実習や特定技能の方と比べると、来日当初は全く会話ができないことも珍しくありません。話す相手もなかなか見つけられず、コミュニケーションに困っているという声も多く挙げられています。そのため、教室には20~30代の現役世代の方や、お子さん連れの方など幅広い層が参加されています。

――小中学校や保育園に通う外国籍のお子さんも増えていると思いますが、教育現場でのサポートはどうなっていますか。

外国籍のお子さんも増加傾向にあります。朝から夕方まで学校にいてクラスメイトと接していても、日常生活で使う日本語と教科学習のための日本語は異なるため、やはり様々な場面で言葉の壁を感じる子どもたちはいます。北上市では独自の取り組みとして、来日して3ヶ月未満のお子さんを対象とした「適応支援教室」があります。

――「適応支援教室」というのは、どのような施設ですか。

学校とは別の教室で、まず3ヶ月間通って日本の学校生活や日本語に慣れてもらい、その後、状況を見ながら補助員と一緒に元の学校へ派遣するという仕組みです。岩手県内の市町村でこの施設があるのは北上市だけだと思います。もともとは不登校のお子さんを対象とした教室だったのですが、外国籍のお子さんの増加を受けて、同じ教室で受け入れ、別の先生をつけながら学習支援を行っています。

食を通じた交流と多言語対応

――行政の窓口業務における多言語対応はどのように工夫されていますか。

まず、国際交流協会に窓口業務を委託しており、英語が話せるスタッフが常駐しています。また、出入国在留管理庁の電話通訳サービスを導入しているほか、令和8年度からは本格的に翻訳機も配備し、様々な資源を使って多言語対応を行っています。市役所の中でも、市民課など毎日外国人住民が訪れる部署もあれば、そうでない部署もあります。私のいる地域づくり課へ、他の課から「通訳できる人はいませんか」と問い合わせの電話が来ることもあり、通訳人材の確保は今後の大きな課題です。

――現場で多文化共生を進める中で、難しさを感じる場面はありますか。

外国人住民が増加するのに伴い、日本人住民の方から「このままたくさん受け入れて大丈夫なのだろうか」という不安の声がだんだんと増えてきています。まちで外国人の方を見かけるものの、直接話したり関わったりする機会は少ないため、どのように接したら良いのか分からず戸惑う方もいらっしゃると感じます。そうした不安を払拭するためにも、ホームページ等で正確なデータを提供し、丁寧にケアをしていく必要があります。

――お互いを知る機会が必要不可欠ですね。地域での交流イベントなどは開催されているのでしょうか。

はい、国際交流協会などと連携して様々なイベントを行っています。「どんな国シリーズ」として今年度はネパールやミャンマーの文化を紹介しましたし、市のバスを貸し切って日本人と外国人が同数程度で県北の町へ行くフィールドトリップ(研修旅行)も実施しました。
一番大きなイベントは毎年11月に行う「ワンワールドフェスタ」で、外国人住民の方々に各国の料理を作って販売してもらったり、ステージ発表を行ったりして、毎年700人ほどが来場します。また、日本語教室では一緒に餅つきをしてお雑煮やきなこ餅を食べるなど、食を通じた交流は大変好評です。

多文化共生へ向かって高まる市民の関心

――食を通すと日本人の方も参加しやすくて良いですね。日本人ボランティアの方も増えているのでしょうか。

今年度初めて「日本語教室パートナー」という有償ボランティアを育成する事業を行ったのですが、定員を上回る申し込みをいただき、地域にこれほど関心を持っている方がいるのだと大変驚きました。これまでパートナーという存在はいなかったのですが、日本語学習を希望する方が増え、既存の体制では対応が難しくなってきたため、一般市民の方を対象に研修会を開き、実際に教室で教えていただきました。

――定員オーバーになるほど関心が高いというのは素晴らしいことですね。そうした方々が増えれば、偏見も自然と減っていきそうです。

本当にそう思います。そういった方々が地域で活躍してくださると嬉しいですね。令和8年度も引き続きパートナー養成の研修会を開催し、定員を増やして実施する予定です。また、学校での子どもへの日本語学習支援や、学校や子育て相談窓口での通訳の役割を担える人材も新たに育成しようと考えています。

――通訳となると、資格をお持ちの方などを想定されているのでしょうか。

資格の有無よりも、地域に長く住んでいる永住者の方や海外在住経験があり、日常会話レベル以上の母語以外の言語能力を持っている方を中心に募集したいと考えています。支援者の方の適性に合った多様な活躍の場を提供し、外国籍の方々とのコネクションを作っていきたいです。

――支援の網の目から漏れてしまう方を少しでも減らしていく、素晴らしい取り組みですね。

ちょうど最近、これまでの10年間の成果と今後の課題解消に向けた施策をまとめた新しい「北上市多文化共生プラン」を策定しました。このプランをもとに、新しい事業や取り組みへと繋げていきたいと考えています。

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