「教員養成の文教」と呼ばれるほど、教育に力を入れる文教大学。そんな文教大学の文学部では、4つの学科に加え、2つのコースが用意されています。そのコースの一つが、今回紹介する日本語教員養成コースです。学科で文学や外国語の専門的な勉強をしながら、日本語教員の資格取得が叶うコースであり、充実した実習などを通じて豊富な知識や経験を得ることができます。
本記事では、実習の様子や学生の成長について、文学部教授の福田倫子先生と荒井智子先生に伺いました。


文教大学文学部 日本語教員養成コース
福田倫子 先生(写真左)
外国語学科教授。専門領域は日本語教育、心理言語学。
荒井智子 先生(写真右)
外国語学科教授。専門領域は日本語教育。
充実した実習や授業を展開

――まず、貴学の日本語教員養成コースの特徴について教えていただけますか。
福田先生:本学の日本語教員養成コースは、1987年に文学部が設置された時、全国に先駆けて日本語教員を育成する機関として同時に開設されました。これまで2600人以上の修了者を輩出しており、卒業生が世界中で活躍しています。
本コースでは文科省の認定を受けた「日本語教員1級(主専攻)」「日本語教員2級(副専攻)」、本学独自の資格である「日本語教員2級」のいずれかの資格を取得することができます。広く深く学びたい場合は1級(主専攻)、基本的な学びを求めている場合は2級(副専攻)と、ニーズに合わせて対応できるようにしています。
また、豊富な実習を用意しているのが強みです。シドニーや中国での海外実習をはじめ、韓国の学生を受け入れる国内実習、本学の外国人留学生別科での実習、地域の外国人を対象とした実習の合計5科目があります。複数選択も可能で、学生の希望に合わせた選択ができるようになっています。2~3科目を取る学生もおり、多くの現場を経験することで即戦力となる人材の育成にも繋がっていると自負しています。
コースのカリキュラムが段階的になっていることも特徴の一つです。1年生で日本語の基礎を学び、2年生で教育法の基礎を学びつつ実習を始めます。3年生からはさらに実習が増え、教え方についてより深く学んでいきます。また、3年生までは初級の学習者に教えることが多いのですが、4年生では中級以上の学習者に教える経験もできるよう、カリキュラムを組んでいます。このように、基本的には順番に知識や経験が積みあがっていくようになっています。ただし、自分の専攻学科の科目と重なるとコースの授業が選択できないので、そういう場合は1年生の科目を4年生で取ることもできます。
さらに、教育法だけでなく、社会言語学や心理言語学も学べる科目も開講しています。人間関係による言葉遣いの違いや日本語の歴史、学習者の言語習得の過程など、教え方を学ぶにあたってより理解を深められるような機会を提供しています。
荒井先生:キャリア教育という点では、多くの卒業生がいることを活かして、「日本語教員への道」というイベントを年に1回開いています。実際に現場に立っている卒業生に来てもらい、どのように活躍しているのかを話してもらいます。こうした機会が、学生たちが日本語教員という仕事を進路として身近に感じられるきっかけになっているのかなと思っています。
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多様化する学生に対応したい
――専攻の学科で学びながらも、日本語教育について自分の興味関心に基づいた学習をできる環境ということですね。実際に日本語教員養成コースを選択される学生さんはどのくらいいらっしゃるのですか。
福田先生:文学部の学生が一学年400名いるのですが、その中で大体50~60名が日本語教員養成コースを選択しています。さらにその内で卒業後日本語教員になる学生は多くて7~8名、少なくて1~2名です。
その他の日本語教員にならない学生はなぜコースを取っているのかというと、せっかくなので資格を取りたいからという理由や、教職課程を履修しているからという理由があるようです。特に教職を志す学生にとっては、近年教育現場でも外国にルーツのある子どもが増えていることもあり、日本語教育を学んでおきたいという動機もあるのかなと思います。
荒井先生:少し話は反れますが、学部生自体のルーツも多様化してきています。両親のいずれかが外国籍であったり、帰国子女であったりする学生もいます。今の時代に合った教育現場やキャリア教育を、大学としても提供しなければいけないと考えています。
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実習を通して成長する学生たち
――やはり充実した実習がコースの一番の特徴かと思うのですが、実習の詳細と参加する学生さんの様子などについて教えていただけますか。
福田先生:特に海外実習ですと、行く前と行った後とではまったく学生の様子が違っていますね。入念に準備をするので行くまでも大変なのですが、実際に授業のコントロールを自分自身でしなければいけない環境に置かれると、かなり力がつきます。教案を立てていく過程でも、日本語や日本について知らなかった部分がこんなにあるんだ、という気づきも得るようです。
また、現地の学生ととても仲良くなることもあり、最後に行われるパーティーでは抱き合って涙する様子も見られます。実習に行くまで海外に行ったことがなかった学生もいるんですが、実習を通して外国に対する心の壁みたいなものは無くなっていくのかなと思いますね。自分が外国人の立場になってみて、自分でなんとかしなければという対応力も身に着きます。
荒井先生:日本人であることや日本語話者であることをそれほど意識していなかった学生が、日本語を勉強したい学習者と接することで「日本語ってそんなにいいの?」と、日本や日本語に対して自信を持つことができ、なんだか嬉しい気持ちになったという感想も聞きます。こうした経験や意識は、将来日本語教師にならなかったとしてもどこかで生きてくると思います。
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福田先生:国内実習でももちろん成長が見られます。韓国の大学の学生を10日~2週間ほど受け入れる実習では、ホスト側としてどうすれば日本のことをよくわかってもらえるか、どうすれば楽しく過ごしてもらえるかを考えることも、とても良い勉強になります。
また、外国人留学生別科の学生を対象とした実習では、学内での実習となりますので、1年を通じて留学生の成長を追うことができるのが特徴です。他の実習に無い喜びも大きいですし、常に学習者に触れられるという点では、実際に教員になった時に近い環境を経験する貴重な実習だと思います。
最後に、地域で行う実習があるのですが、実習場所には本学の地域連携センターが開講している生涯学習コースの一つと、松伏町で行われる日本語教室の二つがあります。生涯学習コースの方は全体で35名ほどの学習者が来てくださるんですが、バングラデシュ、アルジェリア、インドネシア、中国、フィリピン、ベトナム、ロシア、ラオスなど、本当に色々な国の方がいらっしゃいます。技能実習生の方の参加もあります。ただ、学生に任せきりにするのではなく後ろに講師がついていて、教案のチェックや振り返りをしっかり行いながら運営しています。クラスが3つあるのですが、現在は9人の学生が参加しており、単位を取る科目として履修している学生もいれば、サークルのように自主参加している学生もいます。また、働きながら日本語を勉強している人を目の当たりにすることで、留学生だけが日本語を学んでいるわけではないということを肌で感じられるのは、いいことですね。この教室では成人の学習者が多いので、学生が少々失敗しても温かい目で見ていただけることもあります。
荒井先生:もう一つの教室である「まつぶし日本語ひろば」では、教えるというよりも地域に住んでいる外国の方とお話をすることで、多文化交流を経験できます。こちらも技能実習生がたくさん通っていまして、どうしても日本の文化に溶け込めないとか、ゴミの捨て方問題で地域住民と衝突するとか、色々な問題を抱えていらっしゃいます。そこで、ゴミの分別の仕方をゲーム感覚で教えたり、カルタをしながらそれぞれの国のゴミの捨て方を聞いたりしながら、文化的な交流をしています。現在は2~6人の学生が関わっていますが、他の実習と比べて多文化をより感じられるかなと思います。
福田先生:実習を通して学生がよく言うのは、「1年生の時に習ったことが実習に参加してみて初めて理解できた」ということです。やはり座学で学ぶだけでは頭の中を素通りしていることも多いようです。「もっと早く実習をしたかった」という声も聞きますが、知識が全くない状態でするわけにもいきません。座学を踏まえて、その意味がやっと実習でわかることが大切だと思っています。学んできたことを体得するという意味でも、実習はとても良い経験になっています。
多文化共生の大切さを学んでほしい
――では最後に、先生方が考える日本語教育養成コースの意義を教えてください。
荒井先生:文教大学と言えば教育、というイメージがあるかと思いますが、この「教育」には日本の学校教育だけでなく、日本語教育も含まれているのです。このコースでは、教育を大切にする本学のポリシーを実現しているのだという自負がありますね。
また、今の時代、日本人はすごく内へ内へと向かっている傾向があるように思います。その目をいかに外へ向けさせるかという想いを教員は共通して持っています。日本語というブランドがまだ世界で通用している時代だからこそ、日本語教育を学ぶことを通じて、相手の文化を知り、理解する姿勢を養う役割がコースにあると考えています。
福田先生:これからも間違いなく日本に外国人が増えていきますので、多文化共生の視点を育てる手助けになっているかなと思います。教える、教えてもらうという関係にとどまらず、共に生きるという考え方を知ってもらえる場にしたいです。実際に授業でも周辺諸国の視点から日本を見つめようというような内容の科目も展開していますし、日本を客観的に見る目を養っていけるのではないかと思います。学生たちには今一度日本の良さ、日本語の良さも感じてほしいです。その上で、他の文化を尊重することを学んでもらえればと考えています。
こうした想いをもっと多くの方に知ってもらいたいですし、「文教に日本語教員養成コースがあるから」という理由で入学してきてくれる学生を増やしていきたいですね。
――単に資格を取得することや日本語を教えることだけを目的にしているのではなく、日本語教育を学ぶことで異なる文化を理解し、尊重する姿勢を養うことも、実はコースの重要な意義となっているのですね。福田先生、荒井先生、今回はありがとうございました。
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