愛知県内に4つのキャンパスを持つ日本福祉大学。社会福祉学部、健康科学部など福祉を専門的に学ぶ学部だけではなく、教育・心理学部や工学部、経済学部なども設置し、幅広い分野で学ぶ機会を提供しています。
そんな同大学では2025年には180人もの留学生を受け入れており、その数は今後も増えていく見込みとのこと。さらに、これまでの留学生の就職率はほぼ100%だと言います。こうした留学生の増加や高い就職率には、いったいどのような背景があるのでしょうか。
今回は国際学部准教授・同部キャリア担当/日本語教育センター長のカースティ祖父江先生と国際課の井原さんに、特徴的かつ先進的な留学生への支援についてお話を伺いました。

日本福祉大学 カースティ祖父江先生
国際学部准教授/日本語教育センター長
国際学部准教授。イギリス出身。ケンブリッジ大学東洋学部日本語学科卒業(のちに同学科修士)。1994年から日本在住。子ども環境サミット2005ファシリテータをはじめ、通訳翻訳者・日本語教員・プロジェクトコーディネータとして活動。2017年日本福祉大学赴任。日本語教員養成プログラムの主担当教員として、「日本語学Ⅰ」「日本語教育法Ⅰ・Ⅱ」「社会言語学」「対照言語学」を担当。
「日本の大学生」として学んでほしい
――まず、貴学で学んでいる留学生の現状や特徴について教えていただけますか。
井原さん:本学には様々な学部を設けているのですが、現在ほとんどの学部で留学生が学んでいる状態で、そのうちの76%は国際学部に在籍しています。年々留学生は増えており、2025年には180人と、過去最高の人数となりました。
出身国の内訳としては、愛知県にはネパール人が多く暮らしているということもあり、一番にネパール、次いでベトナム、ミャンマー、インドネシアなどとなっており、色々な国の学生がおります。特徴としては関東や関西の学校と異なり、中国からの学生が多くはないことが挙げられますね。
――留学生が増えている要因としては、どういったことが考えられますか。
井原さん:本学の特徴として、学費支援を盛んに行っていたり、留学生の4年間での卒業率が88%と高かったりするので、そうした点が魅力だと思っています。また、入学時に日本留学試験(EJU)が不要で、日本語能力試験(JLPT)のN1対策講座を開講しているなど、試験に関する条件も留学生の方に評価されている点の一つかと考えています。こうした実績が評価され、2024年には日本留学AWARDSにも選んでいただいております。
祖父江先生:入試の面接で本校を選んだ理由を留学生に訊くと、「先輩や兄弟がここで勉強しているから」と答える学生も多いですね。おかげさまで、口コミが結構影響しているのかなと思います。
ただ、単純に留学生を増やすことを目的にはしたくないと考えています。学生の確保は大切なことではありますが、留学生が増えることによって、大学本来の教育の質や学生支援の質を落としたくはないのです。
他大学では、留学生をたくさん増やして専用の別科を作り、日本人学生と分けて授業をするようなところがありますが、うちではそういう教育をしたくありません。少なくとも国際学部では、留学生の為の日本語科目以外は全て日本人学生との共修にしています。これは、留学生たちに「日本の大学の学生」になってもらうことをとても大事にしているからです。
この点は就職活動においても非常に大切です。「大学では留学生だけで勉強して、日本語は上手になったけれどもほとんど日本人と一緒に何かしたことがない」というのは、あまり望ましくないですよね。そういう人は外国人枠でしか採用されないと思います。それよりも、日本人と一緒に色々な企画に取り組んだり、ゼミ活動を通じて学外向けのイベントに参加したりして、共に学び、活動するべきです。国際学部では日本人と仲良く何かに取り組んだ経験がある卒業生を育てたいので、留学生の割合が高くなり過ぎないように、量と質のバランスを注意深く考えているところです。

手厚い就職支援
――就職のお話が出ましたが、具体的にはどういった就職支援を留学生に対して行っていらっしゃいますか。
井原さん:大学全体としては、ガイダンスやインターンシップの案内、面談などに力を入れています。加えて、国際学部では独自にいくつかの取り組みを行っています。たとえば、「アクティブラーニング期間」といって、7か月間自分で色々な活動を企画、実施、報告までを行うプログラムがあります。これは留学生かどうかを問わず取り組むものですが、これまでですと、学生たちはボランティアや語学教育など、国内外で様々なテーマを掲げて活動しています。資格取得や留学にチャレンジする学生もおり、就職活動の際には「学生時代にこんなことに取り組みました」とアピールすることができます。
他にも、就職が決まった先輩たちや、留学生を積極的に採用している企業の話を気軽に聴ける機会を設けています。普段のカリキュラムでも、留学生向けにビジネス日本語の科目を開講したり、企業の方に講師に来ていただく科目を開講しております。
このように、大学としても学部としても、就職支援に非常に力を入れています。

「外国人だから」ではない採用を目指す
――実際のところ、留学生の就職状況はどのようになっているのですか。
井原さん:近年では協同組合や宿泊業、旅行業や海外送金を扱う会社などに就職する学生がおります。あとは医療法人での通訳や技能実習生の支援を行う会社など、やはり留学生ならではの職が多い状況です。愛知県なのでトヨタ系列の自動車関連企業もありますね。空港や行政書士事務所に勤めるという学生も出てきました。
祖父江先生:私が就職支援をする中でネックに感じているのは、「日本人でもいいけど留学生を採用しました」という企業が未だ少ないことです。もっと日本人と肩を並べて仕事ができるようになればいいなと思っているのですが、なかなかそうはいかないようです。空港や行政書士事務所で採用された留学生も、英語が話せるとか、ビザの申請などができるということを主な理由として採用されています。もちろん、技能実習生のサポートや通訳として働きたいという学生もいます。でも、大学で日本人と共修していたように、普通の日本人と一緒に取り組むような仕事を希望する学生もいるのです。
しかしそれを受け入れる企業はまだまだ少ないです。理系なら受け入れてもらいやすいのかもしれませんが、本学は文系学部が多いので、事務職などで応募すると門前払いされることが多いですね。「いくら留学生の日本語が上手でも、やはり日本人でないとこの仕事はできない」という固定観念は依然としてあると感じます。だからもっと企業の認識を変えたり、開発したりしなければいけないなと思っています。
そうした意味でも、企業に来てもらうような授業は有効です。もちろん学生に企業を知ってもらうという意味もありますが、同時に企業の側にも「留学生って普通に採用していいんだ」と思ってもらえるきっかけになります。留学生だから採用するのではなく、一人の人材として採用する。もっとこの認識を育てていきたいですね。
企業も人手不足だといいますが、留学生が応募すると「雇った経験がないんですよ」と断られます。留学生にとってはショックなことですよ。「人材がいないなら採用して」と言いたいですが、まだ本学も大手に対してはそこまで言えない立場なので、地元の中小企業から少しずつ開発をしているところです。

日本語教師を目指す留学生への支援
――もう一つ、貴学の特色として日本語教師を目指す留学生の支援を行っていらっしゃいますよね。これについても詳しく教えてください。
祖父江先生:日本語教師への道を、日本人だけでなく外国籍の学生にも広く開きたいと考えています。他大学で日本語教師養成課程を履修している学生の多くは日本人だと思いますが、本学では今年(2025年)実習を行っている学生9人のうち、2人が留学生です。大学を卒業した時点で、海外で教えるほどの日本語教師の実力を得られるようなプログラムにしています。
2024年から国が指定した機関で日本語教師として働く場合、登録日本語教員の資格が必要になりましたので、本学でも登録日本語教員養成機関として文科省に申請予定です。ただ、うちでは登録日本語教員の試験のためだけの課程にしたくはないと考えています。登録日本語教員は基本的に日本国内で日本語教師をするための資格ですが、本学で学ぶ学生の中には、自分の国に帰って日本語教師をしたいと志している学生もいるからです。実際、卒業生の一人がインドネシアの自分の村に日本語学校を立ち上げました。また、私の場合はイギリスから30年以上前に日本に来たのですが、以前は日本で日本語教師をしていました。このように人によってどこで誰に教えるかという目的がそれぞれですから、柔軟な対応や教育が必要だと考えています。
本学ではこうした養成課程での支援と就職支援とを合わせて、唯一無二の留学生支援をしていると自負しています。本学に限らず、これから先さらに留学生は増えていくでしょう。大学のキャリア教育は未だに日本人を想定しています。外国籍の学生も視野に入れていかないといけません。 少しずつ教員や職員、企業と話し合いながら、改善しようとしていくことが重要です。
――まだまだ認識が広がっていない留学生のキャリア支援について、先進的な取り組みをご紹介いただきました。ありがとうございました。





